Addiction(49)


夜が明けていく。

どんなに朝が来ないようにと願っても、時をとめることなんてできはしない。

雨戸もカーテンもない台所の窓から入ってくる光で、だんだんと明るくなっていく部屋。
鳥の鳴き声が聞こえてきて。
そして。

三蔵が微かにみじろぎをした。
思わず、息をのむ。

「……起きていたのか」

囁くような声に目を開ける。

「そんな顔をするな」

くしゃりと髪をかきまぜられた。

三蔵が起き上がり、身形を整えてるのをじっと見ていた。
軽く髪を撫でつけ、それからこちらに視線が向く。

言葉はないが、『行ってくる』と視線で語りかけられる。
玄関に向かう三蔵の後をついていった。

「いって、らっしゃい」

扉を開ける背中に声をかける。
振り向く三蔵に、笑みを向ける。

うまく笑えただろうか。

行くな、とは言えない。そんな権利はない。
できるのは、見送ることだけ。
だから頑張ったのだけど。

「……」

無言で三蔵はこちらを見つめる。
なんだか、奇妙な表情が浮かんでいる。

やっぱりうまくできなかったのかな、と思い、仕切り直し、と深く息を吸った。

気を落ち着けて。
それで。
もう一度笑おう、と思ったのに。

「三蔵?」

突然、三蔵に抱きしめられた。

ふっ、と首筋に息がかかる。
えっ? と思ったときには首筋に唇が触れていた。

チリっとした痛みが走る。
だけど、それは血を吸われるときのものではなく――。

「な、に……?」

まだ触れた感触の残るその箇所に手をやる。
自分では見えないけど、きっとそこには痕がついている。

なんで――?

言葉もなく三蔵を見上げる。
と、その顔が近づいてきた。

柔らかく唇を塞がれる。

頭のなかが真っ白になる。

やがて唇は離れていき、ふと気がつくと綺麗な紫暗の瞳が目の前にあった。

「それ、消えねぇうちに帰ってくるから、イイコで待ってろ」

耳元で囁く声。

そして三蔵が外にと出て行く。
最後に鮮やかな笑みを残して。

唇に手を当てる。

――キス。

初めてだ。
いや、キス自体が初めて、というわけではないけれど。

でも。
血を吸われていない状態で――普通のときにキスをするのは初めてだ。

カクン、と膝から力が抜ける。

「さ……ん、ぞ……」

その場に座り込んで、震えるようにその名を呼んだ。