Addiction(51)
電話がかかってきた。
携帯の画面に表示されたのは教会の電話番号で。
「八戒、昨日はどうしたの? 大丈夫?」
出ると同時に話しかけた。
なんだか慌ただしげに八戒が出かけて行ったのは一昨日のことだ。
『明日帰る』と言い残して出て行ったので、本当ならば昨日帰ってくるはずだったのに。
でも、帰ってこなかった。
携帯に電話しても繋がらなくて。
すごく心配していたのだ。
だから勢い込んでいったのだが。
「す、すみません。八戒さんではないのですが……」
電話口から、八戒とは全然違う声が聞こえてきた。
「え? あ……、すみません」
ちょっとびっくりする。
「いえ、こちらこそ急に電話をしてすみません。わたくし、しばらく神父の代行をすることになった者なのですが」
「代行?」
「えぇ。八戒さんがいま手がけているお仕事が長引きそうなので……」
すぅ、と血の気が引いていく音が聞こえるような気がした。
指先が冷たくなる。
「あの、すみません、聞こえてますか?」
と、電話口から大きな声が聞こえてきた。
「あ、ご、ごめんなさい。えぇっと?」
「カラーが置いてある場所を教えていただけたら、と。わたしにとっても突然の話で、お恥ずかしながら、慌てていて忘れてきてしまったらしく……。もう少しで日曜のミサが始まってしまうので取りにも戻れないのですよ。この場所は不慣れでどこになにがあるのかもわからなくて、ここの電話帳にあなたの名前があったので、お電話をしたのですが。八戒さんからあなたのお話はよく伺っていましたので」
「あぁ、そうですか。カラーなら、二階の突き当りの部屋の箪笥のなかにありますよ。一番上の左側。箪笥はひとつしかないからすぐわかると思います」
「ありがとうございます。本当にいきなりすみませんでした」
「あの……」
ほっとした声の礼とともに、電話を切ろうとする相手を押しとどめて声をかける。
「八戒の仕事って、どのくらい延びそうなんですか?」
「詳しくはわたしもわかりませんが……。とりあえず来週の日曜までの諸事は頼まれています。その後はまた相談、ということで」
「そうですか。わかりました」
挨拶をして、プツン、と電話を切る。
ふっ、と息をついて、暗くなった画面を見つめる。
八戒……。
冷たくなった指先はなかなか元にもどらなかった。