Addiction(52)
パタン、とドアを閉め。
「……ただいま」
小さく呟いてみるが返事はない。
いつもここにいた人は――。
「――っ」
涙がこぼれそうになって、慌ててこらえる。
ダメだ。
こんなんじゃ、ダメだ。
呪文のように繰り返し、大きく深呼吸して――。
手の中にある薔薇を見た。
今日、これがバイトをしている花屋の仕入れのなかに入っていた。
仕分けしている最中に見つけた。
淡く緑がかった白い薔薇。
バレンタインの時に、すごく三蔵のイメージだと思った花。
気がついたら、握りしめて――泣いていた。
というか、慌てた店長に声をかけられるまで、自分が泣いていることに気がつかなかった。
店長は、よっぽどびっくりしたらしい。
今日はもういいから、といって、この薔薇をくれて帰るようにいわれた。
見つめている白い薔薇が歪んでくる。
一度、涙線が緩くなると、とめどなくなってしまうのだろうか。
一生懸命こらえようとしているのに、どうしても涙が止まらない。
三蔵――。
自分が、こんなに弱いとは思わなかった。
一人でも大丈夫だとずっと思っていた。
事実、一人でいた時間は、もっと長かったはずなのに。
泣くなんてこと、なかったのに。
いつの間にか。
八戒がいて、三蔵がいて、悟浄がいて。
そんな生活が当たり前になっていた。
なのに。
三人とも、いまはいない――。
わかっている。
いなくなったわけではない。もう二度と会えないわけではない。ちゃんと帰ってくる。
でも。
このまま会えなくなることがないと、だれがいえるのだろう。
知らないうちにいなくなってしまうのは。
「やだ……よ。早く、帰ってきて――」
思わず口から出た言葉は、祈りのようだと思った。
叶うことのない、祈りのようだと。