Addiction(53)


泣き疲れて、そのまま眠ってしまったらしい。
目を開けると、目蓋が腫れぼったかった。

辺りはもう明るくなっていたが、光は弱々しい。
まだ明けたばかりなのだろう。
起きるには早いが、でも、どうせ眠れない。
だから起き上がった。

体がやけに重く感じる。
しゃんとしなきゃって思うけど、動作のひとつひとつがうまくできない。
こんなこと、いままでになかったのに。

それでも顔を洗って、そういえば今日はゴミの日だったと思い出して、ゴミをまとめて外に出しに行った。

静かな朝。
空気が澄んで、少し冷たい。

それはこんな状態でも心地よく感じられた。
少しだけ気分が浮上する。
ほっと一息ついて、また部屋に戻ろうとしたら、鳥の羽音が聞こえた。

近い――。

と思うと同時に、肩にふわりと軽い感触。

え? と思わず首を巡らすと、小さな白い鳥と目があった。
小首を傾げてこちらを見ている。

どこかで飼われていたものだろうか。やけに人に馴れている。
と、思ったところで、鳥がなにかをくわえているのに気がついた。
手を出してみると、そこにポトリと落とされる。

そして。
ふたたび羽音がして、鳥は空へと舞い上がった。

手の中に残されたもの。
それは白い――花びら?

と、ふわん、と良い香りがした。

この香りは――。

三蔵がよく飲んでいたお茶の香料と同じもの。

――三蔵。

偶然かもしれない。
これだけで、なにかメッセージがついていたというわけではないのだから。

でも。

必ず帰るから、もう少しだけ待ってろ。

そう、言われたような気がした。

「……待ってる」

そっと手のなかに花びらを包み込んだ。