Addiction(54)


ドンドンドン、と。
ものすごい勢いで家の扉が叩かれた。
びっくりして、飛び起きた。

と、同時に、あれ? と思う。
昨日、いっぺんにいろんなことがありすぎて。
でも戻ってきた三蔵がどこにもいかないでくれるのだとわかって、安心して――そのまま、いつの間にか眠ってしまったようだ。

「悟空っ!」

扉を叩く音に混じって、八戒の声が聞こえてきた。
なんだか切羽詰まったかのような声の響きに慌てて戸口に向かう。
鍵を外して、ドアを開けると。

「あぁ、悟空! 良かった!」

いきなり八戒に抱きつかれた。

「は、八戒?!」

ちょっと面食らう。
たまにぎゅってしてくれることはあっても、こんな風に感情に任せて抱きついてくることなんてなかったのに。

「心配しました。あなたの身になにかあったんじゃないかと――」
「え、なんで……?」

昨日の出来事は、あの代理の神父が教会になにか報告しているとは思えないから、だれにもわからないはずなのに。

「これ」

と、八戒が握りしめていたものを差し出されて、受け取った。

それは――十字架(クロス)。

「胸騒ぎがして戻ってきたら、これが教会に転がっていて。あなたがこれを落としたままにしておくわけがないのに。代理で派遣されていた神父はいないし、あなたの携帯は繋がらないし。もう本当に――」

もう一度、ぎゅっと抱きしめられる。

「本当に心配しました。あなたまで失ったら、僕は――」

その手が微かに震えている。

「八戒……」

安心させるようにその背中に手を回そうとしたところ。
いきなり引き離された。

「三蔵」

振り向くと三蔵がいた。
文句を言おうとしたところ、冷やりとした空気が流れた。
もう一度八戒の方に向き直ると、緑の目が冷たい光を放っていた。

空気が凍りついたように冷たくなる。

「八戒、駄目!」

その視線から庇うように、三蔵にしがみついた。
だけど、三蔵の体も緊張するかのように硬くなっている。

「三蔵も駄目っ」

ますますぎゅっとしがみつく。

「やだ……。やだよ……」

どちらも大切。
どちらも、失くしたくない――。

と、ふっと三蔵が緊張を解いた。
安心しろ、とでもいうように、ふわりと抱きしめられる。

「……次はないです」

八戒の声が聞こえてきた。

「悟空、落ち着いたら、教会に顔を出してくださいね」

そして、いつもの柔らかな声とともに扉が閉まる音がした。

「お前が望まぬことはしねぇよ」

そう呟く三蔵に震える体を委ねながら、いつか聞いた言葉を思い出していた。

――どちらを選ぶのか、と。