Addiction(55)


教会に、三蔵と連れ立って来ていた。
この間の――八戒がいない間のことについて話をするために。

三蔵はちょっと迷惑そうだったけど、ほとんど強引に連れてきた。

話が終わると「無事で良かった」と八戒に抱きしめられた。

いつもなら三蔵が嫌な顔をして引き離しにかかるんだけど、さすがにこのときは八戒が本当に心配しているのがわかったのか、手を出してこなかった。

……嫌な顔はしていたけど。

その後、八戒がお茶を淹れ替えてくれた。
それは三蔵が好んで飲む薔薇の香料を入れたもので――三蔵を認めてくれたのだと、ちょっと安心した。

なんだかふたりは冷戦状態みたいだったから。
少しだけ心配してた。

ここは――教会なのにおかしなことだが、三蔵にとっては居心地の良い場所みたいだったから。
それがなくなってしまうのが、可哀想……というと怒られるかも、だが……俺にとっても嫌だった。

お茶を飲んだあとで、司祭館の2階にあがった。

キィっと微かな音をさせ、扉を開く。
昔、俺が使っていた部屋。
机とベッドと。
残っているのはそれだけだったけど、やはりとても懐かしい感じがした。

「ここね、俺の部屋だったんだ。あそこでひとり暮らしする前、ここにいた」

静かにそう言ってみるが、三蔵から特に反応はない。
ただぐるりと部屋を見回し、それから窓にと向かう。
追ってみると、桜の木を見ているのがわかった。

「前も言ったと思うけど。その木の下に捨てられていたんだ、俺。温かい、春の日のことで――桜が満開で……祝福するかのように花びらが降り注いでいた――って俺を拾ってくれた人は言ってたけど」

それはどうだろう、って思う。
捨てられていたのだから――。
と。

「三蔵?」

突然、ふわりと抱きしめられた。
脈絡のないことにびっくりする。
でも。

「大丈夫だよ」

ちょっと冷静になって、同情してくれているのかな、と思う。

「育ててくれた人はすごく良い人で、全然――両親がいないことなんて、全然気にならなかったし」
「そうじゃねぇよ」

綺麗な紫暗の瞳が見つめてくる。

「お前がちゃんと育ってここにいることに――感謝してるだけだ」

もう一度、抱きしめられる。

……なんだろ。
なんか――ちょっと、胸がいっぱいになった。よくわからないのだけど。

「さんぞ……」

だから、言葉にならない気持ちとともにそうとだけ呟いた。