Addiction(56)
「すごい綺麗だね」
クリスマスイルミネーションの輝く街を三蔵と並んで歩いていた。
三蔵が帰ってきてから穏やかに日々は過ぎていき、『日常』が戻ってきていた。
それでバイトにも普通に行っていたのだけど、今日はお店の日で、終わる頃にふらりと三蔵が入ってきた。
人混みが嫌いだから、こんなところまで来たことなんてなかったのに。
びっくりして、どうしたの? と聞いても、別に、というだけで。
ちゃんとした答えは返ってこなかったけど、でも特になにか深刻な理由のあってのことではないみたいだから、ま、いっかと思った。
で、せっかくだから、綺麗と評判のイルミネーションをしているところを、遠回りして抜けていくことにした。
評判になっているだけあって、その通りはすごく綺麗で人も多く。
ってか、カップルばっか。
こんなところに男二人は、ちょっと目立つかな、と思ったけど、みんな自分たちと光のイルミネーションしか見てないみたいだった。
「ほわぁ」
木々につけられた電飾に目を奪われていたら。
「うわっと」
足もとにあったなにかにつまずいて転びそうになった。
「なにやってんだ」
だけど、三蔵が腕を掴んで支えてくれた。
「ありが……と……」
礼を言おうとして言葉を忘れる。
だって。
煌めくイルミネーションよりも、三蔵が綺麗だったから。
「ったく、気をつけろよ」
ぽぉっと見とれているうちに、がしっと手首をつかまれた。
「え? 三蔵?」
そのまま引っ張られるようにして、歩きだす。
「ちょ、ちょっと」
手をひかれて歩くのって、なんか恥ずかしいんだけど。
「みんな、見てる」
「見てねぇよ」
「んなことないっ」
三蔵、目立つんだから。
「見てたとしても気にすんな。ただの通りすがりだ。またこけられて、怪我でもされたらそっちのが面倒だ」
「……もう大丈夫、だもん」
イルミネーションよりも綺麗なものを見つけちゃったから。
それにしても。
こうして手をひかれるのって、ちょっと恥ずかしいけど、ちょっと嬉しいかも。
気にかけてくれているってことだから。
そして、どうせなら。
並んで歩けるようにと、少し足を速めた。