クリスマス
「さんぞ?」
可愛らしく小首をかしげて悟空がいう。
「いや、だから違うって。サンタ。サ、ン、タ。お前、なにかサンタから欲しいものはないかってきいてるの」
「さんぞっ」
「……だからぁ」
ガクン、と悟浄は肩を落とす。
「どうしたんですか?」
「はっかーいっ」
キッチンから顔を覗かせた八戒の方に、てててと悟空は駆け寄る。
「まだ熱いですからね。気をつけて」
懐いてくる悟空に蕩けそうな笑みを見せ、八戒はリビングのローテーブルに悟空のおやつに作った出来たてのアップルパイを乗せる。
横に添えられたバニラアイスが溶けかかっているのがなんとも美味しそうだ。
そこにメイプルシロップをトロリとかける。
「きゃーい」
両手をあげて悟空が喜ぶ。
「いただきましゅっ」
それからあぶなっかしい手つきで、フォークを使ってアップルパイを食べ始めた。
口の周りについたクリームを、母親のように時々ふき取ってやりながら八戒が悟浄に尋ねた。
「で、さっき、どうしたんです? なんか疲れきってたみたいですが」
「あぁ。もうすぐクリスマスだろ」
煙草を出そうとして、八戒に睨まれ、悟浄はますます肩を落とした。
「プレゼント、なにが欲しいか聞いてたんだが、話になんなくて」
「そうなんですか?」
八戒は悟空を見下ろした。
「悟空。サンタさんにプレゼントのお願いはもうしたんですか?」
「うんっ。さんぞっ」
にっこりと笑って悟空は答える。
「……な?」
その横で困ったように悟浄が肩を竦めた。
「いえ、そうじゃなくて……」
八戒が話しかけようとしたとき、玄関の扉が開く音がした。
「さんぞっ」
ガタン、とテーブルを鳴らして立ち上がり、悟空が玄関にと飛んでいく。
「おかえりなしゃいっ」
駆けてきた勢いそのままに悟空は三蔵に飛びついた。
「こら、あぶないだろうが」
いいつつも三蔵は悟空を受け止め、片手で抱き上げる。
「ただいま」
それから悟空を見ていうと、悟空の顔に満面の笑みが浮かんだ。
「早かったですね」
リビングに入ると、八戒から声がかかった。
「小猿ちゃんに会いたくてたまんなかったとか」
くすくすと笑う悟浄の横に――というか、ほとんど目がけて、三蔵は荷物を放る。
「あっぶねぇっ」
ぶつかりそうになるのを悟浄はあやうく避けた。
「保育園の送り迎えくらい別に毎日やってもいいくらいですのに」
「そんなに編集者ってのは暇なのか」
「おいおい」
無視された格好になった悟浄は文句のひとつも言おうと口を開くが。
「ちゃいちゃい?」
三蔵に床に下ろされた悟空が寄ってきて聞くのに、なしくずしに笑みを浮かべた。
「小猿ちゃんはイイコだなー」
「大丈夫ですよ。悟空。潰されたくらいじゃ死なないですから」
「ちょ……っ、八戒さん」
「それより、三蔵。あなた、悟空にサンタクロースのことを教えてないんですか? まさかプレゼントを買うお金が惜しいとかではないですよね」
「河童じゃあるまいし」
「って、おい!」
「じゃあ、なんで悟空はサンタクロースを知らないんですか? サンタさんっていったら三蔵って答えましたよ」
「知らないわけじゃねぇよ。俺が教えなくても、保育園で覚えてくる」
「あぁ。それもそうですね。クリスマス会とかしますものね。でも、そうしたらなんで三蔵なんて……」
ふぅ、と三蔵は溜息をついた。それから。
「悟空」
無視され続けて不貞腐れているような悟浄の脇から、悟空を呼び寄せた。
嬉しそうな顔で悟空が三蔵のそばに寄ってくる。
「お前、サンタクロースは知ってるよな?」
「白いひげのおじぃさん! 赤い服、着てるの」
「やっぱりわかってるんですね。でも、じゃあ、どうしてさっき三蔵って……」
「さんぞ、お願いしたから」
「え? だから三蔵とサンタさんは……」
混乱したような表情を見せる八戒を、悟空はちょこんと小首をかしげて見上げる。
「そうじゃなくて、プレゼントの内容だ」
「は?」
「だから、プレゼントの中身に俺が欲しいといいやがったんだ、この小猿は」
「え? 三蔵を?」
「へ? って、小猿ちゃん、三蔵を食う気……って、嘘っ、冗談っ」
キッと三蔵ばかりか、八戒にまで睨まれて、悟浄は後ずさる。
「……なんでまた、三蔵を。悟空、他に欲しいおもちゃとかないんですか?」
「うさちゃんっ」
「この間見てたうさぎのぬいぐるみですか? だったらそれをサンタさんにお願いすればいいじゃないですか」
「さんぞがいいの」
ぎゅっと、三蔵の足のところに悟空はしがみついた。
「さんぞとずっといっしょ」
「別にサンタに頼まなくても一緒にいるっていってるだろうが」
悟空の頭に手を置いて、三蔵がいう。
いつもであれば悟空はそれで納得するのだが。
どういわけか、悟空は三蔵にぎゅっとしがみついたままだ。
「そばにいる」
三蔵が重ねていった言葉に、ますます悟空は三蔵にしがみついた。
→おまけ