着ぐるみ


コーヒーを淹れようと三蔵は書斎の扉を開いた。
と、居間から笑い声がした。

そこには悟空と、朝から閉じこもりっぱなしの三蔵の代わりに悟空の相手をしている編集者がふたりいるはずだ。

それにしても、編集という仕事はそんなに暇なのだろうか。
今日は休日だが、ふたりはしょっちゅうここに入り浸っている。

まぁ、それはさておき、少しは悟空の様子を見ておくかと、扉を開けたところ。


「ごじょー、おもいっ」

「えぇ? 悟浄さん、そんなに太ってねぇぞ。だいたい小猿ちゃんは力持ちじゃなかったのか?」

「ほらほら、悟浄。暴れないで。ふたりとも、こっち向いて。撮りますよ」


はしゃぐ悟空と楽しそうなふたりの姿が目に飛び込んでくる。
それは微笑ましい光景なのだが――。


「……てめぇら、なにしてる」


戸口のところで立ち止まったまま三蔵が低い声を漏らした。


「あ、さんぞー」


パタパタと悟空が三蔵の方に近づいてくる。
ぽふっと抱きつくその格好は……。

いや、悟空はまだいい。
問題なのは。


「おや、三蔵。ちょうど良かった。ちょっと息抜きしていきませんか?」


三蔵に気がついた八戒がカメラ片手ににっこりと笑う。

が。
それに対するは三蔵の怒号。


「なんなんだ、お前ら、その格好は」

「お? 仲間はずれで怒ってる? 心配すんな、お前の分もちゃんとあるから」


近づいてきて、親しげに肩を組もうとする悟浄の手を三蔵は撥ねつけた。


「ふざけんな」

「えぇ? ちゃんと一番可愛いのをとっといてあげたんですけど」


驚いたように言って、八戒が広げて見せたのは。


「はむちゃんっ」


悟空がはしゃいで言うように、ハムスターの着ぐるみ。
といっても、ぬいぐるみのようなものではなく、パジャマのようなそんなもの。

ちなみに、三蔵の足にしがみついて上を見上げている悟空が着ているのは、茶色のお猿さんの着ぐるみで、似合っている、といえなくもない。

というか

正直にいうと、すごく愛らしい。
ちょっとほかにも着せてみようかと思ってしまうほどだ。

だが。

眉間に皺を寄せて、三蔵は残りふたりの格好を見る。

犬の着ぐるみに、にわとりの着ぐるみ。

なんでこれの大人用のなんかがあるんだ?
素朴な疑問が頭をかすめる。

そんなことを考えていると、くいくいとズボンを引っ張られた。

見下ろすと、悟空が目をキラキラさせて小首を傾げた。


「さんぞー、はむちゃん?」


う、と三蔵は言葉につまる。


「ほら、小猿ちゃんのリクエストだぞ」

「可愛いですよ」


着ぐるみを広げて迫ってくるふたりに、三蔵は一歩、足をひいた。