選択


「だ、か、ら」

「う〜」


お茶を淹れて八戒が居間に入っていくと、眉根を寄せてむずがるような表情で三蔵にぴったりとひっついてる悟空の姿があった。


「どうしたんです?」


悟空の前には悟浄がいて、その悟浄を見て悟空は、むぅっとした顔をしているので、なにか悟浄のせいでこうなっているらしい。
悟空を苛めている――わけではないだろうが、難しいことを言って困らせているのか、と八戒の口調が少し厳しくなる。


「どうもこうも……」


ふぅ、と悟浄が溜息をつく。どうやら困っているのは悟浄の方らしい。
なにがあったのだろう、と不思議に思いつつ、その悟浄と、三蔵の前にブラックコーヒーを置くと。


「くぅもそっちがいいっ」


悟空が三蔵のカップにと手を伸ばした。


「あぁ。ダメですよ。そっちは苦いし、熱いから危ないですよ」


小さな手を片手で取って阻止し、八戒は悟空の前にミルクを置く。


「悟空のはこっち」


と、悟空がぷぅっと頬を膨らませた。


「またそれかよ」

「え?」

「小猿ちゃん、『三蔵と一緒がいい』しかいわねぇんだよ」

「は?」


八戒は、目をぱちくりと見開く。
よくよく聞いてみると、八戒がお茶を淹れている間、ふたりが差し入れで持ってきたケーキを悟空に選ばせようとしたのだが、悟空は『三蔵と一緒がいい』としか言わず、好きなのにしろといっても選ばなかったそうだ。


「優柔不断な男はモテねぇぞ」

「なんの話ですか」

「ほら」


呆れたようにいう悟浄のそばで、悟空にひっつかれている三蔵が溜息をひとつつくと、悟空にイチゴのショートケーキを取ってやる。


「ありがとー」


と、悟空は機嫌を直し、にこにこと笑顔になる。


「おいおい、三蔵さま。ダメじゃないか、ちゃんと自分で選ばせなきゃ」


悟浄は眉を顰めるが。


「ダメなのは、あなたですよ、悟浄。無理強いしちゃいけません。それに『選ぶ』って結構難しいんですよ? このくらいの歳の子ができなくても当たり前です」

「そうなのか?」


八戒に言われて、びっくりしたような表情になる。


「おいおいできるようになりますよ」


フォークを渡している三蔵と、嬉しそうに受け取って、さっそく苺にフォークを突き刺している悟空に、ふたりは視線を送る。


「ま、これだと三蔵が世話を焼きすぎて、それでできないように見えるかもしれないですけどね」


その言葉に今度は三蔵が眉を顰める。


「でも、この状況でわかることって、どちらかというと悟空が三蔵を大好きだってことでしょうね」


それは無視するように、八戒は悟空に微笑みかけた。


「好きだから一緒がいいんですよね」

「うん、さんぞー、大好きっ」


わかっているんだかいないんだか、悟空はそんな返事をして三蔵にぴとっとくっつく。
可愛らしい笑顔と仕草に、周囲の大人たちはなんとなくなし崩しに笑みを浮かべた。