遊園地〜アトラクション


「くーさんっ!」


絵本のなかに迷いこんでしまったかのような空間で、悟空がはしゃいだ声をあげた。


「悟空、こっち向いてください」


声がした方に、全開の笑顔をむける。
それをパシャパシャとデジカメに収め、八戒は、ほぉっと幸せそうな溜息をついた。


「もう、ホント可愛いですね」

「おい、八戒」


写真を撮っていたため、並んでいた列に少し空間ができる。


「あ、すみません」


呼ばれて、後ろの人達に会釈をしつつ列を詰める。

それぞれに目立つ青年が三人、それも可愛らしい幼児連れとくれば目立つのは必定だ。
周囲が微かにざわめくが、三人とも慣れているせいか、特に気にした風もなく少しずつ前へと進んでいく。

時間内であれば並ばずに入れるというパスを使ったのだが、なかに入ったところで通常の列と合流して、のろのろとしか進まなくなっていた。
人混みを厭う三蔵の機嫌がほんの少し降下しているが。


「さんぞーっ。あれ、みじゅっびたしのお話っ」


悟空が嬉しそうにはしゃいでいる様子に、どうにか持ちこたえているようだった。
本当に悟空には甘いな、と八戒と悟浄はこっそりと目配せしあう。

そうこうしているうちに、ようやく乗り場が見えてきた。


「こんにちは。何名様ですか?」

「4人です」


にっこりと笑って問いかける係員に、同じくにっこりと笑って八戒が答える。


「あちらにどうぞ」


指し示された方に向かい、乗り物に乗った途端。


「やだっ」


突然、悟空が身を捩った。


「やだ、やだ、やだっ」


横に座る三蔵の膝のうえに乗り上げるようにして、ぎゅっとしがみつく。
ほとんど半泣きの状態だ。

さっきまで機嫌よくはしゃいでいたはずなのに。

大人三人は予想もしない事態に、しばし固まる。


「悟空、どうしたんです?」


が、係員の困ったような顔に気づき、一番最初に立ち直った八戒が後ろの席から優しい声で尋ねる。


「やだもんっ」


だが悟空はそう言って、さらに三蔵にぎゅっとしがみつく。


「あの、すみません。安全レバーを下ろしますので、お子様はお隣にお願いしたいのですが……」


遠慮がちに係員が言葉を挟む。
三蔵は溜息をついた。


「おい、悟空。お前、クマさんに会いに来たんだろ?」


その言葉に、涙が浮かぶ顔があがった。
ハンカチを取り出して顔を拭いてやりながら、三蔵はちゃんと目を合わせて問いかける。


「クマさんはこの先にいる。会わずに帰るか?」

「……う」


ちょっとだけ悟空が考え込むような顔をする。

どっちも嫌だ。

そんな表情だ。
が、少しだけ行く方に心が傾いているのが、三蔵にはわかった。


「ちゃんと手ぇ繋いでてやるから」


悟空を抱きあげて隣に座らせ、しっかりと手を握ってやる。


「俺たちも後ろにいるから大丈夫だ。安心しろ」

「そうそう。この向こうは楽しいですよ」


悟空は後ろから声をかける二人を振り返り、うーっとちょっと唸りながら三蔵の腕にぎゅっとしがみついた。
ほっとした様子で係員が安全レバーを下げる。

そして。
ゆっくりと乗り物が動き出した。




アトラクションが始まってしまえば悟空はそちらに夢中になり、暗いところも脅かされるところも全然平気で、さっき嫌がって泣いていたのはなんだったのだろう、という状態だった。

終わったあとに落ち着いてから、『なにが怖かったのか』を聞いたのだが、判然としなかった。
が、乗り物を降りたあともしばらく三蔵の手を握って離さなかったので、自分でも覚えていないような何かしらが怖かったのだろう。

そしてこれは、不思議なこともあるものだと、後々まで言われるエピソードになった。