遊園地〜お菓子


園内を進んでいくと、小さい子供が籠を持ったお姉さんの方に駆けていくのに出くわした。
どうやら飴かなにかを貰っているらしい。

三蔵と手を繋いでいた悟空が足をとめ、きょん、とした顔でそちらを見る。


「あぁ。ハロウィンのお菓子ですね」


子供たちを目で追いながら八戒が言う。


「悟空、お姉さんに『トリック・オア・トリート』って言うとお菓子を貰えますよ」


それから悟空の方に向き直り、ちょっと屈んで目線を合わせてそう教える。


「へえ。そんなのやってるんだ。『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』か。俺はいたずらの方がいいな。お姉ちゃん、可愛いし」

「悟浄」


相変わらずひとこと多い悟浄は八戒に睨まれて肩を竦める。


「それにしてもそんなことをしてるなんてよく知ってたな、八戒」

「それはもう」


にっこりと八戒が笑う。
そういえば園内のアトラクションの位置とか、トイレの位置とか妙に詳しかった。
何度もここに来ている……というわけではなさそうなので、事前に下調べをしっかりしてきたのだろう。


「とり、とり……?」


拙い口調で悟空が小首を傾げる。


「おしい。あともうちょっと」


なんて可愛いだろう、とでもいうような笑みを浮かべて八戒が悟空の頭を撫でる。


「トリック、オア、トリート、ですよ」


それから一語一語区切るようにして教える。


「とりっく、あー、とりぃ」

「そうそう。上手です」


褒められて悟空は嬉しそうな顔をし、それからお姉さんの方に向かって駆けていく。
大人3人がのんびりと近づいていくと、ちょうど悟空の番になるところだった。


「えっとね、とりとりっ!」


悟空は勢い込んでそう言い、それから。


「あれ?」


と小首を傾げた。


「『Trick or Treat』だろうが」


悟空の頭をぽんぽんと叩き、綺麗な発音で三蔵が言う。

揃いも揃ってカッコイイ男性が3人も近づいてきて、お菓子を持ったキャストは驚いたように一瞬、動きを止める。
が、そこはさすがに教育が行き届いていると言われる遊園地のことだ。一瞬で立ち直り、悟空の方に向き直ると。


「よくできました。はい」


と、飴を渡してくれる。


「ありがとー!」


満面に笑みを浮かべて悟空がいい、三蔵にぽふっと抱きつく。


「飴、貰った!」

「よかったな」


三蔵は包みを解いて、悟空の口のなかに飴をぽんと入れてやる。


「おいしー」


にこにこと悟空が笑い、はしゃぐように足取りも軽く駆けていく。

と。
ワゴンの前で立ち止まった。
じーっと見上げ、それから三蔵の方を振り返った。


「さんぞっ!とりとりっ」

「……それは菓子を強請る言葉じゃねぇ」


微かに眉を顰めつつ、だが財布を取り出す三蔵を、八戒と悟浄は苦笑しながら見守っていた。