遊園地〜アトラクション2 (2)
「この辺でいいですかね」
劇場内に入った八戒は独り言のように呟いて、真ん中あたりの列に入っていく。
端から順番に着席していくなか。
「悟空はこっちにいらっしゃい」
と、悟浄から悟空を受け取って自分の隣に座らせる。
さて、と落ち着いて、手にした3D用のメガネを悟空につけてやろうとしたとき、後ろから火がついたような泣き声が聞こえてきた。
ビクン、と悟空の肩が震える。
「あぁ。結構暗いからかな」
辺りを見回して悟浄が言う。
別に怖い系のものではないが、そういうのもよくわからない赤ちゃんは暗いというだけで怖いのかもしれない。
「悟空、大丈夫ですよ。これ、怖いものではないですから」
八戒が安心させるようににっこりと笑う。
ちょっと唇を尖らせ、不安そうに悟空は八戒と見上げる。
と。
今度は違う場所から泣き声があがった。
連鎖反応みたいなものかもしれない。
「さんぞ」
「って、おい」
悟空は座席に座っている悟浄を乗り越えるようにして、三蔵の方に手を伸ばす。
「さんぞ」
なんだか泣きそうになっている。
「悟浄、三蔵と席を変わってあげてください」
軽く溜息をつくようにして、八戒が言う。
「いや、どっちかってぇと……」
悟空は三蔵の方に行こうして、三蔵は受け止めようとしているのだから、悟浄と悟空が代わる方が自然なのではないだろうか。
そう口に出そうとするが、八戒の笑顔に悟浄は口をつぐむ。
――悟空の隣がいい、というわけですか。
こっそりと頭のなかだけで呟いて、悟浄は自分の上を乗り越えようとしている悟空の頭を宥めるように撫でる。
「いま、三蔵と代わってやるからちょっと待てって」
それから三蔵の方を見る。
「八戒さんのご指名だから」
と、言えば嫌な顔をされるが、口に出してはなにも言われない。狭いなかふたりは席を交換した。
「そんなに暗くねぇだろうが」
「うん」
三蔵が悟空に声をかける。口調は素っ気ないが、さりげなく肘掛に手を置いて、悟空にぎゅっと握らせてやっている。
ほっとしたように笑う悟空に、結局のところ三蔵が一番なんだな、と悟浄は思う。
わかりやすく甘やかすところは見たことはないのだが、こういうわかりにくい甘やかしでもちゃんと悟空には伝わっているらしい。
端からはあまり見えないかもしれないが。
「仲良し親子だな」
と、悟浄は呟いた。