急転 (3)


「えと……」

ようやく改めて休憩に入り、目を輝かせた八戒がスタッフと色々と打ち合わせしている間、ちょっとここにいてくださいと、お茶とかコーヒーとか用意されている部屋に、三蔵と一緒に押し込められた。

ふたりきり、である。
――落ち着かない。

「あのさ、コーヒーでも飲む?」

コーヒーサーバーが置いてある方に歩み寄りながら聞くと。

「やめとけ」

という答えが返ってきた。

「へ?」
「お前、不器用そうだから、コーヒー零して、その衣装、買い取り、なんてことになりそうだ」
「そんなこと……っ」

――ない、とは言えない。

ので、そそそ、と飲み物が置いてあるところから離れる。
だって、こんなの買い取っても使い道ないし、だいたいいくらするんだろ、これ。
スカートのところはふわふわと薄い綺麗な布が幾重にも重なってて、胴のとこには良く見ると細かい刺繍がしてあったりするし、相当高いんじゃないだろうか。
でも。

「……そういえば、これ、なんだろ」

自分が着てるものを見てて、ふと疑問に思ったことが口に出てしまう。

「あ?」
「これ」

ドレスは前の部分がミニになってるから、ほんのちょっとスカートをあげだけで太腿の部分が見えるのだが、そこになんかゴムのようなものが留まってるのだ。
ゴムっていってもレースで装飾されているから綺麗なものなんだけど――でも、これになんの意味があるんだろって最初から疑問だったのだ。だって、こんなとこに着けてても見えないのに。

「あぁ。ガーターか」
「がぁたぁ?」

発音がヘンだったのか、三蔵がクスリと笑う。

「靴下留め。ストッキングを留めるモンだ。こういうのじゃなくて、吊るすタイプなら見たことあるんじゃねぇか?」

なんか人の悪そうな笑みを見つつ、考える。
ストッキングを留める、吊るすタイプの……って――!

うぎゃ。

瞬時に自分の頬が赤くなったのがわかる。
ぐるり、と三蔵に背を向ける。と、後ろから面白そうな声がかかった。

「ほぉ。実際に見たこと、あるのか」
「違っ! 見たのは、友達が貸してくれたDVDで――っ」

いらんことを言いそうになって慌てて自分で自分の口を塞ぐ。

ぎゃーっ、なにを言ってるんだよ、俺は!

なんか軽く死にそうになる。
……けど。
ちらりと、後ろを窺うとなんだか余裕そうに微かに笑みを浮かべる顔。
に、ちょっとだけ頭が冷える。

うん。
そうだよな。
こういう人なら、そういうのも実際に見たことあるだろうし、それに――。
それにそういう関係の女性がいても――おかしくない。
すぅ、と気分が落ちこんでいく。

だいたいこの気持ち自体が変――なんだ。
いくら綺麗だからって、この人が好き――――なんて。
そんなの――受け入れてもらえるわけがない。

胸の奥がズキンと痛んだ。