後瀬 (2)
店が終わって、速攻で片づけをして、戸締りは店が終わるまでいた悟浄に押しつけて、荷物をひっつかんで急いで外に出た。
なんとなく急がないと消えてしまいそうな――そんな感じがして。
外に出て、一応車道だけどあんまり車の通りのない道を横切って、向かいのコーヒーショップに行こうとして――足が止まった。
窓際の席に三蔵がいた。
やっぱりそこだけ色があるみたいだ。
周囲とははっきりと違う。
思わずじっと見つめていたところ、不意に三蔵が顔をあげた。
ちょっと慌てる。
視線に気づいたってわけじゃない、よな。
だけど、まっすぐにこちらを見つめてくる。
ど、どうしよ――。
軽くパニクってると、三蔵が立ち上がり、そしてふと気付くとすぐ横にいた。
ふと気づくと――って言い方は変かも、だけど。
ここまで来るのをずっと目で追ってたんだから。
でもなんか――三蔵が自分に向かって歩いてくるなんて、夢のなかの出来事みたい、だったから。
「おい」
声をかけられて、初めて我に帰るといった感じ。
「さ、さんぞ」
ちょっと声が上ずる。
本人を目の前にして名前を呼ぶのもちょっと――なんか気恥ずかしいようなそんな感じ。
ずっと名前がわからなくて『あの人』って思ってたから。
こんな風に話せるなんて――嘘みたいだ。
「なにやってんだ、お前。そんなとこでぼけっとつっ立って。店がわかんなかったわけじゃねぇだろ?」
「え、えと」
「まぁ、いい。行くぞ」
「え? 行くってこのまま?」
この人の家に行くんだろうか。
「なんだ? なんか問題でも……」
あるのか、という言葉に被せるように、腹の虫が盛大に鳴いた。
――う。
顔に熱があがってくる。
普段なら腹の虫が鳴いたってこんな風に赤くなったりはしないんだけど、なんだろ、この人相手だと――。
「わかった、先にメシな」
唇の端が微かにあがる。
ふわぁって思う。
微かな笑み――すごい。綺麗。
「なんだ? さっきから。百面相だな」
くしゃりと髪をかき混ぜられた。
あ――なんか、これ、好きかも。
思わず頭に手をやる。なんだか嬉しくて笑みがこぼれる。
「メシ、その辺、適当でいいか?」
と、そんなことを聞かれた。
「そっちにファミレスがあるよ」
「ファミレス?」
ちょっと怪訝そうな顔をされた。
確かにあんまり似合わないかも。
でも。
「俺、いま、あんま手持ちがないし」
「奢るぞ」
「え? いいよ。俺、いっぱい食うから。出してもらうと、あんま食えない」
「遠慮はいらねぇが……」
三蔵はちょっと考えるような素振りを見せる。
「ま、いいか。ファミレスでも。一度入ってみるのも面白そうだ」
「へ? 三蔵ってファミレス、入ったことないの?」
いや、ホントに似合わない――けど。
「別にいいだろ、そんなこと」
はぐらかさられた。
ま、本当に別にいいんだけど、ね。
「こっち」
とりあえず先導するように歩き出した。