後瀬 (3)


そしてご飯の後で、三蔵の家に連れてかれた。

「えと……お邪魔します」

この間の部屋。
前と一緒で変わってない。
なんか本当に玄関からしてよそよそしいような――人が住んでるところというより、モデルルームみたいな、そんな無機質な感じがする。
暮していればもっとこう――その人特有の雰囲気みたいなのがありそうなのに。

「……っ」

そんなことを思って辺りを見回していたら、腕を引かれて抱きしめられた。
そのまま唇を塞がれる。
最初から深い――キス。

「……ちょ……っ、さんぞっ」

いきなりのことに腕をつっぱって抵抗する。
けど。

「ん……」

巧みに腕のなかに捕えられて、深いキスに翻弄される。
なんだが体の深いところでジンジンと熱が渦巻いていくようで、体から力が抜けていく。
のを。

「あ……」

抱き上げられた。
ベッドのうえにおろされる。

「さん……ぞっ」

そのまま覆い被さってこようとするのを押し留めた。

「さっきからなんだ?」

少し不機嫌そうな声が降ってくる。

「だって着いてすぐこれって……なんか……。もうちょっとさ、話とかしねぇ?」
「話ならさっきしただろうが」
「う……」

確かにファミレスで話はした。
ちょっとだけ。
腹が減ってて食べる方に集中しちゃったってのもあるけど、なにを話したらいいのかわかんなくて、本当にちょっとだけ。

でも、沈黙してても嫌な感じじゃなかった。
なんか――言葉はなくてもわかり合えているようなそんな感じ。

なんて。
本当はなにひとつ三蔵のことをわかっていないんだけど。
三蔵の職業のこととか。

それはファミレスでちょっと聞いてみたんだけど、な。
モデルが本業じゃないって言ってたからなにをしてるのかなって。
でも、結局よくわからなかった。
はぐらかされたって感じ。

悟浄と同じくらいの年齢だと思うんだけど――ってそういえば、歳さえも知らない。
とにかく学生じゃないと思うんだけど……ちゃんと働かなくても良いくらいに実家がお金持ちなんだろうか。

本当は別にちゃんと家があって、ここは本当の家じゃなくて、単にこういうことをするための――。
そう考えたら、なんか――ちょっとだけ胸が痛んだ。

「どうした?」

と、また声が降ってきた。
でも、今度のは不機嫌そうじゃない。むしろ心配しているかのような感じ。

そっと目を合わせると、綺麗な紫暗の瞳が見つめ返してくる。
わかりにくいけど、やっぱり心配してるみたい。
そんな様子に、なんでもいいじゃないか、ってすっと胸に落ちた。

いま、この時、この瞬間に、俺を見ていてくれているのだから他はどうでもいい――。

「なんでもない」

笑みを浮かべる。
手を差し伸べて、そっと髪に触れる。
嫌な顔をされるかと思ったのだけど――そんなことはない。ただじっとこちらを見つめている。

普段ならきっと嫌がると思うんだけど。
触れるなって雰囲気――オーラが出てる気がする。
特別に扱われているみたいだ。
――いま、この瞬間は。

なんだか嬉しくなる。
密やかな笑みがこぼれた唇に、唇が重なってくる。

「さんぞ」

交わすキスの合間に囁く。
触れてくる手は、優しくて――熱い。

「……ぁ」

その熱に溶かされていって。
あとはなにもわからなくなる――。