願い(おまけ)
「……というわけ」
西へ向かう旅の途中の宿屋。三蔵に向かって、さっき買い物に行ったときのことを話していた。三蔵は新聞を広げたまま、こちらを見ようともしない。
「なぁ、三蔵、聞いてる?」
「聞いてない」
茶に手を伸ばして、三蔵が言った。
「なんだよ、それ。ひでぇな」
「ひでぇもなにも。くだらんコトばかり言っているからだろうが」
「だって、昔、三蔵、言ったじゃん。何でも話せって」
「……忘れたな」
一口、茶をすすって三蔵が答える。
「むぅ」
頬を膨らませてみるが、本当は知ってる。
三蔵はちゃんと覚えている。
それに。
「なぁ、三蔵」
立ち上がって三蔵の方に行く。ふわっと後ろから抱きついた。
「ずっと、一緒にいるからな」
強く願えば、その願いは叶う。
あの時、三蔵はそう言った。
でも。
どんなに強く願っても、願いは叶うとは限らないのを、今はもう知ってる。
特に、ずっと一緒にいたいという願いは。
だって、ひとりがどんなに一緒にいたいと願っても相手がそう思わなければ、その願いは叶わない。
だから、俺が強く願えば、その願いが叶うというのは――。
三蔵もそう願ってくれているということ。
「ずっと。いつまでも」
繰り返して言う言葉に、三蔵からの返事はない。だけど、三蔵の目の前で組んでいた手を取られた。そして、そっと手の甲に唇が押し当てられた。
「さんぞ」
嬉しくなって、三蔵の首筋に顔を埋めた。
ずっと、いつまでも、一緒に。
その願いは、変わることなく永遠に叶い続けていく。