遠い日の約束(5)
そして、翌日。
「おっかえりー」
三蔵が扉を開けると、パタパタという足音とともに悟空が飛び出してきた。
「お疲れさま。ご飯にする? お風呂にする?」
悟空は悪戯っぽく笑いながら言う。
「そ、れ、と、も、俺?」
その台詞に、三蔵は笑みを浮かべた。
「お前」
「ええぇぇ?!」
間髪も入れずに返した答えに、悟空は驚きの声をあげた。
構わずに抱き上げる。
「ちょ、ちょっと、三蔵。ご飯の支度、まだ……、ん……」
三蔵は、わたわたと手足を動かして抵抗しようとする悟空の唇を塞いだ。何度も繰り返しキスをしているうちに悟空の体から力が抜けていく。
「あふっ……」
唇を離すと物足りなげな声があがった。
「続きはベッドで、な」
「三蔵っ!」
耳元で囁き、真っ赤になった悟空の抗議の声を無視して寝室にと向かう。
ベッドに悟空を落とした。
そのまま覆いかぶさろうとして、三蔵は途中で動きを止めた。
「さんぞ……?」
不思議そうな顔をする悟空の左手をとり、三蔵は器用に片手でポケットから取り出した小さな箱を開けると、そこから取り出したものを、悟空の薬指に嵌めた。
「三蔵、これ……」
悟空が左手をかざすように見つめる。
その薬指に光る、指輪。
「サイズ、大丈夫みたいだな」
三蔵は満足そうに悟空の左手に嵌った指輪を見ると、唇を近づけて、指輪の上にキスを落とした。
「前の、壊れちまったからな。新しいのを買ってきた」
「三蔵……」
悟空の目から涙が溢れてきた。三蔵は少し驚いた顔をする。
「何だ? 気に入らないか?」
「ちがっ!」
悟空は首を横に振る。
「なんか……っ、結婚指輪みたいだって、思って……。そしたら、嬉しくなって……」
悟空は袖口で涙を拭った。
「ごめん、今の勝手な想像。どんな意味でも嬉しい、凄く」
本当に幸せそうに笑う悟空の唇に、三蔵は柔らかいキスを落とした。
「どんな意味も何も、そういう意味しかねぇだろう」
「三蔵……」
三蔵は悟空の方に上体を倒した。そして、服に手をかけて……。
「お前、またそんな格好してたのか」
少し呆れたような声をあげた。
悟空がつけていたのは、白いフリフリのエプロン。前の時と同じだった。
「だって、男ならこういうのが好きだって」
その台詞に三蔵の眉根が寄った。
「誰に教わってくんだ、そんなこと」
「悟浄。あ、エプロンを貸してくれたのは、八戒」
悟空は三蔵の高校、大学と後輩だった人物の名前をあげた。
「悟浄は、エプロンの下は何もなしってのが男のロマンだとか言ってたんだけど、さすがにそれは恥ずかしいだろ」
悟空は少し赤くなりつつ言う。
「三蔵は、こういうの、好みじゃない?」
それから、単純に興味本位な顔で聞いてきた。
「別に」
三蔵はそう答えたあとで、笑みを浮かべた。
「お前なら、何も着ていないのが好みだからな」
その言葉に、悟空は耳まで真っ赤になった。
「三蔵のエロ親父……」
呟いた言葉に、三蔵はむっとした表情を浮かべた。
「いい覚悟だ」
そして、そう言うと悟空に覆いかぶさっていった。
「あっ、やんっ!」
途端に甘い声が漏れる。
作りかけの夕飯は忘れ去られたまま。そして、夜は始まったばかり。
甘い吐息はいつまでも部屋を満たし続けていた。