夜に咲く花(4)
清々しい朝の光が眩しく、いつになく綺麗に感じられた。
なんだか、らしくない感情だが、あれだけ暗闇のなかに閉じ込められていたのだ。少しくらいはいつもとは違くもなるだろう。
というよりも。
「む〜、徹夜しちゃったよ。ねむぅ……」
していたサングラスを外し、隣でこしこしと目を擦る子供に会ってから、ずっとらしくないことばかり続いていたのだから、このくらいはどうということもないだろうという気にもなってくる。
「三蔵の姿は誰にも見られてないから、安心して持ち場に戻って大丈夫だよ」
ふわぁ〜と大あくびをしながら、悟空は言う。
あの部屋の扉が開いたとき、悟空が飛び出して、その場にいた全員を一瞬のうちに床に沈めた。
出るな、と言われていたが、悟空が外に出たらすぐに続くつもりだった。だが、本当に一瞬の出来事で、加勢などまったく必要なかった。
「お前、そんなナリでめちゃくちゃ強くないか?」
「……それは、誉めてるの?」
悟空は複雑な表情を浮かべる。が、それはすぐに笑みに変わる。
「ま、いっか。三蔵がいなかったら、ここにこうしていないし」
「俺は何もしてないぞ」
「だって、あの部屋で抱きしめてくれたから」
ぽすっと抱きついてくる。
「言ったでしょ。暗くて閉じ込められるのはダメだって。あいつら、それを知ってるからあの部屋に閉じ込める仕掛けを作ったんだよ。暗闇で弱っているところを捕まえようってね。でも、三蔵がいてくれたおかげで助かった。すぐに殺されなくても、何をされるかわかったもんじゃないからね」
「だが、俺がいなかったら、あの部屋に閉じ込められることもなかったんじゃないか?」
その仕掛けを発動させたのは、他ならぬ俺だ。
「どうだろう。それはわかんない。だってたぶん仕掛けはあれひとつじゃなかったと思うし。でも……」
悟空の顔があがる。
ずっと暗闇で、こんな風に近くで見たことがないから気付かなかった。
見上げてくる瞳の色は金。
太陽のようだ。
「三蔵に会えたから、あとのことはどうでもいい。ね、今度はいつ会える?」
「いつって」
「俺が予告状を出したら、また三蔵に会える?」
「おい……」
にこにこと笑って言う様子に脱力する。
「わかっているのか? お前は泥棒で、俺は警官。敵同士だろうが」
「うん。敵同士なのに恋に落ちるってロマンチックだね」
……頭が痛んできた。
恋、だと本当にこいつが認識しているのだとは思えない。
「違うの?」
何も答えずにいたら、胸元で心もとない声がした。
「三蔵は違うの? 俺を好きじゃない?」
みるみる表情が萎んでいく。
「そういえば好きだって言われてない。俺だけ……」
泣きそうだ。
そう思った途端、勝手に体が動いていた。
引き寄せて唇を塞ぐ。
泣かせないように。
なぜだろう。
別に誰が泣こうが関係ないだろうと思っていたのに。
この子供が泣くところは見たくなかった。
「違わねぇよ」
唇を離すと同時に囁いた。
「三蔵」
今度は、嬉しそうな表情になる。
それを見ながら、これから先、かなり面倒なことになるのだろうと頭の片隅で思った。
だが。
それも悪くはない。
もう一度、引き寄せながら思った。