【原作設定】
千の妖怪の血


2006年7月21日


千の妖怪の血を浴びれば――。


「三蔵っ!」

 叫ぶように名を呼んで、悟空が三蔵に駆け寄る。

「何、やってるんだよ! なんで?!」
「騒ぐな、煩い」

 カラン、と三蔵の手から剣が落ちた。

「だって……っ!」
「しょーがねぇだろ。弾切れになっちまったんだから」
「でも、でも……、三蔵、怪我」
「してねぇよ。返り血だ」

 三蔵は煩わしそうに、法衣の袂で自分の頬を拭う。
 白い法衣を染める赤。
 袂だけでなく、点々と赤い花のように血が飛び散っている。

「なんで……」

 泣きそうな顔で悟空が呟く。

「そんなの、全然、嬉しくないよ……」
「だから、弾切れだったと言ってるだろう。それ以上でもそれ以下でもねぇよ」

 他のことはいざ知らず、悟空は三蔵のことに関しては異様に聡い。
 ふっと三蔵はため息のように短く息を吐き出した。
 それから、くしゃりと悟空の髪をかき回し、何事もなかったかのように短く告げる。

「行くぞ」
「うん」

 そっと握られる手。

 その温かさ。
 いつまで感じてられるのだろう。
 少しでも長く、と思うのは我侭だろうか。
 そのために――。

 赤い赤い、血のような夕日に向かって歩く二人。
 繋いだ手は、どちらからともなく強く握られた。