【原作設定】
木の実


2006年7月28日


う〜。あと、ちょっと……。
精一杯伸ばした指先が、もう少しで触れそうなんだけど。

「なにしてるんだ、お前」

急に声をかけられて、限界まで伸ばしていた体のバランスが崩れ、倒れそうになる。
が、どうにか踏みとどまって、振り返った。
木の根元で、昼寝を決め込んでいたはずの三蔵が起き上がっていた。
うー、うー、唸っていたのは心の中でだったと思ってたけど、声に出てたのだろうか。

「あれ。あの赤い実。もう少しで取れそうなんだけど」

枝の先っぽになりている、季節はずれの赤い実を示す。
枝は細すぎて、木に登ってとることはできない。
三蔵は立ち上がると、こともなげに手を伸ばして、枝から赤い実を摘み取った。
くれるのかと思って、期待して見上げていたところ。

「まぁまぁ、だな」
「っ!」

なんてことだろうっ!
自分の口の中に放り込みやがった。

「三蔵っ! ひっでぇっ! 俺が先に見つけたのにっ!」

頬を膨らませて睨みつける。

「見つけたのはな。だが、取れなきゃ意味がないだろうが」

明らかに楽しんでいるような笑みが浮かんでいる。
う〜。
無性に腹が立ってきた。

「あったま、きた。ぜってぇ、大きくなってやるっ!」

ぶんぶんと腕を振り回して、宣言する。

「でもって、三蔵のこと、見下みくだしてやるんだっ!」

と、三蔵の顔に呆れたような表情が浮かんだ。

「馬鹿だとは思っていたが……」

わざとらしくため息までつく。

「この場合、使うとしたら『見下みおろす』だろ、『見下みくだす』じゃなくて」

……う〜っ。

「ま、どっちもごめんだが」

またもや、うー、うー、唸っていたら、三蔵に腕を掴まれた。
そのまま引き寄せられる。

「こういうことがしにくくなるからな」

啄ばむようなキス。
微かに甘酸っぱい香が残る。

……ずりぃ。
そんなことされたら、怒ってられなくなるじゃんか。

「さっきのの、味見したいから、もう一回」

くいっと、法衣の袂を引いた。


(memo)
 「見下す」「見下ろす」 どっちも一緒。ってか、勝手にしてください?