【原作設定】
…ほのぼの?
2006年8月30日
午後の割と早くに着いたその街の大通りでは、いたるところから良い匂いが立ち上っていた。
「うわぁ」
悟空が大きな金瞳をさらに輝かせた。
それもそのはず。
大きさも種類もさまざまな肉まんが、通りに沿ってところ狭しとひしめきあった店や屋台で売られているのだ。
「八戒、八戒、八戒」
その光景から目を離さず、クイクイと八戒の袖を引く。
「凄いですね」
そう返事をする八戒に、コクコクと悟空は頷いた。
「ここはもともと2軒のお店があって、それぞれに腕を競い合っていたんだそうですけど、遠くからもお客さんがくるようになって、それならば、と腕に覚えのある肉まん屋さんがどんどん集まってきたそうですよ。今では美味しい肉まんが食べたいならココに行けって言われてるんですって」
手にした手帳を見ながら八戒が言う。
「……って、それにそんなことを書いてるのか?」
横にたつ悟浄が呆れたように呟く。
「ちょっとしたメモですよ。そんなことばかり書いているわけないじゃないですか」
にっこりと笑って八戒が言う。
その笑顔になんとなく悟浄が後ろに引きかけたところ、ぐぅとお腹の鳴る音がした。
「お前、昼、食ったばかりだろ?」
手を伸ばして悟浄が、悟空の頭を押さえつけた。
「だってこんなの見てたら、ぜってぇ腹減るって。な、八戒ぃ〜」
袖を両手で掴んで、甘えるように悟空が八戒を見上げる。
ここで保護者ではなく保父さんに強請るのは、今までの経験によるものだろう。
「くだらん道草食ってねぇで、行くぞ」
その判断を裏付けるかのように、三蔵がにべもなく言って歩き出す。
「待てよ、三蔵。いいじゃんか、別に。まだ日も高いし」
「山越えして5日も野宿だったんだぞ。宿を決める方が先だ」
「そんなこと言って、三蔵サマったらヤキモチ?」
悟浄の言葉に三蔵の足が止まった。
「愛しの小猿ちゃんが、保父さんにベッタリだからって……」
ガチッとて撃鉄の上がる音がして、悟浄はにやにや笑いを凍りつかせた。
「ダメですよ、三蔵。こんな人通りの激しいところでそんなもんを振り回しちゃ。もっと、人けのないところでお願いします」
「お前な……」
のほほんと言う八戒と、顔を引きつらせて両手をあげている悟浄。三蔵は、二人を一瞥すると、舌打ちをしてもう一度歩き出した。
その後姿を驚いたような表情で、しばらく悟空は見守る。
だが。
「ヤキモチ?」
そう呟くと、するりと八戒の手を離し、三蔵を追いかけて駆け出した。
満面に笑みをうかべて、悟空は三蔵の法衣の袂を掴む。
その様子を見ていた八戒が、ふっと短く息をつくと、ちらりと悟浄に冷たい視線を送って歩きだした。
「……」
それはせっかく懐いていた悟空を三蔵に取られたからだろうか。
ひっきりなしに人が行き交う喧騒の中。あとには、少し青ざめた悟浄だけが取り残された。