【パラレル(先生×生徒)】
視姦


2006年9月2日


 その強い眼差しに――


「動くな」

 目を逸らそうとしたら、途端に声が飛んできた。

「でも……」
「いいよ、と言ったのはお前だろう」

 言葉を返そうと思ったが、先回りされる。
 確かに『やってもいい』と言ったのは、俺だ。
 だけど――。

「だから、動くなって。疲れたわけじゃねぇだろ?」

 そう言われて、しぶしぶ顔をあげる。
 視線の先には、スケッチブックに向かう先生。

 デッサンをしたいからモデルになってくれ、と言われた。
 デッサンのモデル。それはもしかして……とちょっと引きかけた俺に、先生は笑いながら、別に脱げとは言ってねぇよ、と言った。
 だから、いいよ、と答えた。

 先生が注文してきたポーズは、椅子に逆さに座るような――椅子の背もたれにむかって座って、腕を背もたれに乗せ、先生の方を見る、という難しくもなんともないもので。ついでにいえば、長時間、その姿勢でいてもあんまり疲れないんじゃないかというようなもので、最初は楽ちんだな、と思っていた。
 そう。最初は。

「おい、顔を伏せるな。こっちを見ろ」

 ……だって。
 顔をあげれば、怖いくらいに真剣な瞳が目に入る。
 それは、普段は――もちろん、授業中になんかには、絶対に見られない、強い眼差し。
 何もかも、見透かされてしまいそうな眼差しは……。

 妙に、アノ時のことを思い起こさせる。

「悟空」

 と、低い囁き声がした。ピクンと体が反応してしまう。

 ……ワザと、だ。
 今のは、絶対、ワザとだ。
 だって、あんなトーンの囁き声。普段だったら、絶対に言わない。

 ちょっとムッときて、反射的に顔をあげたところ、微かに笑いを浮かべる先生と目が合った。
 息を呑む。

 その表情は、まさしくアノ時のもの。
 それから、先生はわずかに目を細め、こちらをじっと見つめた。
 絡みつくような視線。
 体が震え出す。

 別に何をされているわけでもないのに。
 ただ、見つめられているだけで――。
 その視線に。


 ――犯されているような気になった。


(memo)
 三蔵の担当教科を何にしようか迷っていて考えついたお話