【パラレル(先生×生徒)】
屋上


2006年9月8日


「すっごーい」

 屋上のドアを開くと、あたり一面は、紫に包まれていた。
 夕暮れ時。

 美術の準備室で、部屋の整理を手伝っているときに窓を見たら、外が綺麗な紫色に染まっているのに気づいた。もっとよく見てみたくなって、外にと先生を誘った。
 美術室は5階だし、すぐ上が屋上だからと、普段は鍵がかかっている屋上に出てきた。
 こんな風に世界がうす紫に染まるのって、滅多にないことだと思う。

 昼と夜の間。
 一瞬の、狭間の出来事。

「先生の瞳の色みたいだね」

 覗きこむようにして言う。
 見とれるほど綺麗な紫の瞳。
 見とれることができるほど近くにいれることに、なんだか嬉しくなって笑う。
 だって、先生、滅多に他人を近くに寄せないから。
 と、腕をとられて引き寄せられた。

「ちょ……」

 待って。
 そういうことがしたかったわけじゃないのに、唇を塞がれる。
 しかも、手は怪しい動きをしているし。

「っ!」

 シャツの裾が引き出され、そこから手が入りこんできた。
 思わず突き飛ばすようにして、腕から逃れた。

「何、考えてるの、ここ、屋上だよ」
「だから?」

 ちょっと不機嫌そうに眉を寄せ、先生が言う。

「だからって、下から見える……」
「もう誰も残っちゃいねぇし、上を見るヤツなんかいねぇよ」

 もう一度、腕を掴まれる。今度は強く。滅多なことでは振り解けないくらいに。

「やだって。学校じゃ、ヤダ」

 身を捩っても、その腕からは逃れられない。

「離して、先生」
「先生、じゃねぇだろ……悟空」

 耳元で囁かれる低い声。
 ずるい。
 この声を好きなのを知っていて、こういうときに使うなんて。

「いい子だ」

 甘く、蕩かすように、柔らかく触れてくるキスも好き。
 だから。
 逃げられなくなる。

「や……だ……」

 怖いのに。
 こんなところで、こんなことをするのは、すごく怖いのに。

「さ……んぞ……」

 どうしたらいいのかわからなくなって、腕にすがりついた――。


(memo)
 素敵シチュエーションのメールを頂いて。あ、でも言い出したのは私です。