【パラレル(モデル×ボーカル)】
季節外れ
2006年11月17日
通用口に向かう人気のない狭い廊下。
一歩、足を踏み出した途端、物陰に隠れるようにしていた悟空に抱きつかれた。
「いきなりなんだ?」
ここで待っているように言っておいたので、悟空がここにいること自体は驚かないが、いきなり抱きついてくるとは思わなかった。
長く会えなかった、というわけではない。
だいたい今朝までずっと一緒にいたのだ。
「だって、寒そうだったから」
言われた台詞に、一瞬考えるが、すぐにその意味がわかった。
「しょーがねぇだろ。ファッション業界は常に季節を先取りしてるんだから」
「でもだからって、この寒空になんだって夏物コレクションなんだよ」
「そういうもんなんだよ。夏に毛皮、冬にノースリーブってな」
うー、と自分が寒そうにしながら、悟空がますます抱きついてくる。
「別に会場は寒くなかったろう?」
「そうだけど」
「ま、お前が暖めてくれるというなら、こんなところじゃないところでお願いしたいな」
耳元で囁くと、悟空が身を竦めるのが伝わってきた。
ぐっと、額が胸に押しつけられる。
「……うん、いいよ」
顔をあげぬまま悟空が言う。
「思う存分あっためてあげる」
茶色の柔らかな髪からのぞく耳が赤く染まっているのが見える。
「ったく、お前、なんだってそうヤバいくらいにクる台詞をさらりと言うんだ? この場で押し倒してやろうか」
「えぇ? ちょっと、待って。それはカンベン」
慌てたように離れようとする腕を掴む。
まっすぐに目を見つめ、そして――。