【原作設定】
キス


2006年11月22日


 ふぅ、と紫煙を吐き出すと。
 長い綺麗な指が空中を舞うように移動し、トン、と軽く灰皿の縁が叩かれた。
 それからゆっくりと、手がさっきとは逆の軌跡をたどり。
 また、少し厚めの唇に煙草がくわえられる。

 なんてことない日常のありふれた動作。
 一日に一回どころか、何十回と見ている動作。
 それなのに、そんな一連の動きをじっとみつめていたら。

 ふいに。
 キスがしたくなった。

 そして一度そう思うと、もうそれしか考えられなくなる。
 手を伸ばして、新聞をどけて、煙草をとりあげて。

「なんだ?」

 少し不機嫌そうな顔を無視して、唇を重ねた。
 一瞬、三蔵から驚いたような気配がするが、舌を滑り込ませると、応えてきた。
 軽いキスじゃ全然足りない。
 もっと。
 もっと、深く。
 唇からひとつに溶け合ってしまうくらいのキスが欲しい。

 何度も何度も舌を絡めあってキスをする。
 ようやく唇をはずすと、唾液が銀色の糸をひいて落ちていった。

「いきなりどうした?」

 長いキスのあとで、三蔵が聞いてくる。

「別になにも」

 そう言ったあとで、すぐ近くにある紫の目を覗き込んで、まるで挑発するかのように聞いてみた。

「キスをするのに理由がいるの?」

 微かに三蔵の口元に笑みが浮かぶ。

「いや」

 なんとなく笑い合い、また顔を近づけて、今度は軽く舌先だけを絡める。
 舌だけでするキスはなんとなく淫靡で。
 朝の光のなかには似合わない。

 だけど。
 さらに距離をつめて、もう一度、深いキスをした。


(memo)
 ただキスしているところが書きたかっただけ。