【原作設定】
動いちゃダメ
2006年11月28日
シャワーを浴びて部屋に戻ると、ベッドの上にちょこんと小猿が座っていた。
「……お前、自分がプレゼントとかいうベタなことを言うわけじゃないだろうな」
機先を制して先に言葉をかけると、小猿がうっと絶句した。
思わずため息がもれる。
今日は俺の誕生日とされる日。
本当の誕生日かどうかもあやしいし、なにがめでたいのかわからないし、祝ってもらおうという気も毛頭ないのだが、一週間くらい前から猿がずっと騒ぎ続けていた。
なにか欲しいものはないか、と。
なにもない、と突っぱねたが、なにかあるはずだとしつこくまとわりついてくる。
しまいには切れて、そんなもの、自分で考えろと怒鳴りつけた。
で。
考えた結果がこれか。
「だって、わかんねぇんだもん、三蔵の欲しいもの」
少し頬を染めて、俯き加減で悟空が言う。
「それに『コレ』なら、突っ返されることはないかな、って思って」
……確かに、返す気はないが。
近づいていくと、悟空がベッドから降りて立ち上がった。
腕を取って抱き寄せ、二、三度、軽くキスをする。
「ね、三蔵、ベッドに座って、手を出して」
さらに深く唇を合わせようとするのを制して、こちらを見上げ悟空が言う。
「なんだ?」
「いいから」
トン、と軽く押されてベッドに座らされる。
「手」
そう言った悟空に両手を持ち上げられる。
「ちょっとそのままにしててね」
しゅるり、と、服の後ろポケットから悟空が取り出したもの。
淡い、紫色のリボン。
「……なんのつもりだ?」
差し伸べた両手首にくるりと巻きつけられる。
「一生懸命、練習したんだよ。リボン結び」
言いながら、いつもの不器用な手つきはどこへやら、きゅっとリボンを結ぶ。
「綺麗でしょ」
にっこりと笑って、どこか誇らしげに悟空が言う。
自分でそう言うだけのことはあって、リボンはどこも歪んでもいないし曲がってもいない、綺麗なリボン結びになっていた。
「解け」
「イヤ」
悟空が跪く。
「ふざけるな」
「ふざけていないよ。だって、今日は三蔵の誕生日だもん」
こちらに向かって手が伸びてくる。
「だから、全部、俺がするから」
ジーンズのチャックに手がかかる。
「三蔵は動いちゃダメ」
ゆっくりとチャックを引き下ろし、悟空がこちらを見上げた。
金色の目が濡れたように光っている。
そして、口元に浮かぶ、普段の姿からは想像がつかないほどの、しっとりとした艶やかな笑み。
それが、ゆっくりと近づいてきて――。