【原作設定】
雪の妖精
2007年2月4日
朝起きると、外は一面の銀世界だった。
夜のうちに降り積もったのだろう。ふわふわの真っ白な雪には、まだ誰の足跡もついていなかった。
「うわぁ!」
わけもなく叫び声をあげて外に飛び出そうとしたところ。
「待てよ」
悟浄に首根っこを掴まれた。
「なにすんだよっ、エロ河童!」
あやうく首が絞まるところで、すぐさま振り返って猛然と抗議をする。
「まぁまぁ、落ち着けって、サル。せっかく綺麗に雪が積もってるんだ。雪の妖精って見たくねぇ?」
「雪の妖精?」
白い、綺麗なイメージが頭に浮かぶ。
「なに、それ。そんなの、いるのか?」
「見たいか?」
「もちろんっ!」
即答すると、悟浄がにやりと笑った。
「そうか。じゃ、とりあえず外に出るぞ」
連れだって、雪の上に足跡をつけていく。サクサクと音をたてて進んでいくのは、なんだかワクワクして気持ちがいい。
「この辺か」
しばらくして、悟浄が呟いた。
「サル。両手を広げて、そこに立ってみろ」
言われた通り、手を広げる。
「なに、悟浄。こんなんで、雪の妖精なんて見れるのかよ」
「ばっちり」
その言葉とともに、いきなり額を小突かれた。
「うわっ!」
予想もしないことをされて、見事にそのまま後ろにひっくり返る。
「悟浄っ!」
「動くな」
すぐさま起き上がろうとしたが、悟浄に止められる。
「いや、両手だけ動かせ。こう、上下に振る感じで」
「なんだよ、それ」
「いいから」
むぅ、と思うが、ここまでくれば一緒だ。毒を食らわば皿までってやつ? 両手を羽ばたくみたいに上下に動かした。
「よぉし、これでOK」
言いながら差し出してきた手に掴まって起き上がった。
「ほら、見てみろ。雪の妖精だ」
言われて、指し示された方――後ろを振り返ると。
そこにあるのは。
人型で、手を動かしたところが蝶の羽のようになっている……。
「……これが、雪の妖精?」
「そ。見えるだろ?」
……確かに、見えるけど。
「なんか腑に落ちない」
呟いた言葉に、悟浄が笑い出す。
「嘘は言ってないぞ」
う〜。
なんかムカツクなぁ。
胸がモヤモヤして気持ち悪い。ちょっと誰かにあたりたい気分だ。
というか。
これ、誰かにやってみたら、いいかも。
「八戒……はだまされてくれなさそうだよな……。やっぱり……三蔵?」
うん。
三蔵にやってみよ。
「え? おい、サルっ!」
なんだか慌てたような悟浄の声を背中に受けつつ、走って引き返した。