【パラレル(SSオリジナル)】
冷たい雨
2007年2月23日
学校の帰り道。話ながら歩いていたら、いきなり腕をとられた。
気が付かなかったわけではない。
だいたいこんな印象的な人がわからないはずはない。
だけど、黙って前を通り過ぎようとした。
それなのに。
「どうした、悟空?」
少し先に進んだ友人たちが足を止め、引き返してこようとする。
「何でもない。ちょっとした知り合い。なんか用があるみたいだから、先、帰って」
掴まれていない方の手を振る。皆一様にちょっと訝しげな顔をしたが、「じゃあな」とか「明日な」とか言って、そのまま進み出す。
それを見送ってから、改めて腕を掴んでいる人の方に向き直った。
「で、何?」
綺麗な顔には何の表情も浮かんでいない。が、無言のまま引き寄せられた。
「……もういらないんじゃなかったの?」
腕の中に大人しく抱かれながらもそう言う。
「だいたい、ここ往来だよ。こういうの、イヤだって言ってたじゃん」
喧嘩をしたのは一週間前。
もうこんなことは何度も繰り返して。
そのたびに何度ももうやめようと思って。
もう何度もこの人のそばにはいられないと思って。
今回だって、泣いて泣いて、泣き続けて。
今はもう。
「疲れちゃった……」
ため息とともに言う。
涙と一緒に、いろんなものが流れていって。
心は空っぽ。
もう何も残っていない。
こうやって抱きしめられても、もう何も感じない。
だけど。
三蔵の腕に力が入って、強く抱きしめられた。
「ずるいよね。本当は、一人でいられないのは三蔵の方なのに」
顔をあげると、紫暗の瞳とぶつかった。
相変わらず無表情のままなのに、何故かその目は泣いているようで。
「本当にずるい」
何もないはずの心の奥底が疼く。
このまま、この人の元に戻ったら、また互いに傷つけあうだけなのに。
どうして。
どうしてこの手を振り払うことができないんだろう。
もう涸れ果ててしまった涙の代わりのように、空から雨が落ちてきた。