【原作寺院設定】
お昼寝
2007年5月9日
「さんぞっ」
いきなり声がかかって、読んでいた本を取り上げられた。
今日は久々にとれた休みだったが、このところ連日連夜激務が続いていたため、自室でゆったりとくつろいで本を読んでいた。
珍しく小猿も脇で絵本なんぞをひろげておとなしくしていたのだが。
どうやらそれも午前中だけのことだったらしい。
「遊びに行きたいなら一人で行きやがれ。俺は疲れてる」
「うん。知ってる」
出鼻をくじいたつもりだったが、真面目な顔でそう返され、なんだか拍子抜けする。
「ずーっとそんなに細かい文字ばっかり追ってたら、余計疲れるって。ちょっと休んだほうがいい」
手を引っ張られて寝室にと連れられていく。
「はい。少しお昼寝しよ」
とん、と軽く押されて、寝台のうえに座らせた。
「ほら、ちゃんと寝て」
ほとんど強引に寝台に横にならされる。
それから小猿はガタガタと椅子を引きずってきた。
「……なんのつもりだ」
「絵本、読んであげる」
にっこりと無邪気に笑って、膝のうえに絵本を開く。
小さな子供でもあるまいし、そんなこと、しなくてもいい――。
そう言おうとしたのだが、意外にもすらすらと絵本を読んでいく小猿に声をかけそこなってしまう。
買い与えた本には、少し難しい漢字も入っていた、と記憶している。
なんど教えても覚えられない字もあったはずだ。
だが。
――成長しているんだな。
なんとなしに、唇の端に笑みが浮かんでくるのがわかった。
そして。
悟空の声がだんだん遠くなっていった。
どうやらそのまま寝てしまったらしい。
気がつくと、目の前に寝台につっぷして寝てる悟空の顔があった。
「おい、猿」
起こそうとするが、規則正しい寝息はまったく乱れることはない。
「……ったく」
いくら春の最中で暖かとはいえ、こんなところで寝ていたら風邪をひくかもしれない。
半身を起こし、抱えあげ、隣に寝かす。
「……う、みゅ」
さすがに少し覚醒したのか。
小猿は眉根を寄せてもぞもぞと動いていたが、法衣の胸元に顔を埋めるようにすると、安心したのか、そのまま体を預けてきた。
ため息をひとつ。
今日はたまっていた本を読んでしまおうかと思っていたのだが。
このぬくもりには抗えない。
腕のなかにしっかりと抱き込んで、目を閉じた。