【原作寺院設定】
お裾分け


2008年3月9日


 微かな音がして扉が開いた。

 いつもよりもゆっくりとした動作で部屋に入ってくるのは、音をたてないように、というよりも疲れているからだろう。
 寝台のそばに立ち、ふっとため息にも似た吐息が聞こえたところで、声をかけた。

「お帰り」
「……起きてたのか」

 少し意外そうな声。

「うん」

 会話とも言えない会話を交わしつつ、三蔵は着ているものを解いていく。
 そして、キシッと音を立てて隣の寝台に横になった。
 そのタイミングを見計らって、隣に移動した。

「おい」
「いーじゃん。一緒に寝よ」
「俺は疲れてる」
「うん、知ってる」

 手を伸ばして三蔵を抱きこむ。

「こーしてるだけ。ならいいでしょ」

 三蔵の髪に顔を埋める。
 いい匂い。
 煙草とたぶん本堂で焚いているお香が混ざりあった匂い。

 これを他の人がいい匂いと思うかはわからないけど。
 でも、三蔵の匂いだ。

 そっと三蔵の顔を窺う。
 暗い中でも顔色が悪いのがわかる。

 ホントはそんなに働くことないのに、って思う。
 他のヤツらに任せて、困っていてもほっとけばいいんだ。

 だけど、意外にも真面目なんだよな、三蔵は。
 そんなことをいったら、機嫌が悪くなるだろうけど。
 せめて。

「俺の元気、分けたげるよ」

 ぎゅっと抱きしめる。
 俺にできるのは、このくらいだから。
 ホントに元気が伝わるといいんだけど。

「……バカ猿」

 やがて聞こえてきた声は少し柔らかくて、なんだか嬉しくなった。