【原作寺院設定】
おかえりなさい(原作寺院設定の場合)


2008年5月18日


 真夜中を過ぎて。
 三蔵は疲れきって寺院の自室にと戻ってきた。

 師の形見の経文に関する情報を得て遥々出かけていったのだが、今回もまた成果なしで終わった。

 心と同じく重い足を引きずるようにして寝室に続く扉を開ける。
 と、自分の寝台に小猿が大の字になって眠っているのが目に入った。

 思わず脱力する。

 と同時に、ふつふつと怒りのようなものが湧いてきて、三蔵はつかつかと寝台に近づくとハリセンを振り上げた。
 が。

「うにゃ……」

 なんともしまりのない幸せそうな顔が飛び込んできて、腕を振り上げたままの姿勢で固まる。

 ふっと、溜息のように息をついて。
 三蔵はハリセンをしまうと、寝台の端にと腰かけた。

「おい、猿」

 揺すって起こしにかかる。
 だが、それくらいでは起きようはずもなく、何度か繰り返してようやく、むむむぅと額に皺を寄せ、うっすらと悟空は目を開けた。

「……さんぞ……?」

 ぽーっとした顔で呟き、それからへにゃと締まりのない寝ぼけた笑みを悟空は浮かべた。

「おかえりー」

 舌足らずな口調でそういって起き上がるが、すぐにぽて、と三蔵の腕のなかに倒れこむ。
 そして三蔵が答える間もなく、すぅすぅと寝息をたて始めた。

 その寝顔を見て。
 三蔵は顔に手をあて、天井を振り仰いだ。

 ったく、なんだってこんな――。

 自嘲じみた笑みが唇の端に浮かぶ。

 寝ぼけた言葉と、安心しきって眠る様を見て。
 どうしてこんな癒されたような気持ちになるのだろう。

 それは、一人きりだったころには思いもしなかった感情。

 それがどういうことなのか、深く考えることを放棄して。
 三蔵は手早く装束を解くと、悟空を抱えて寝台にと潜りこんだ。