【原作設定】
迷子


2008年7月18日


「みつけた、三蔵っ」

 広場の花壇の縁に腰かけて、煙草をふかしていた三蔵のもとにバタバタと悟空が走り寄ってきた。

「もう、捜したぞ。いきなり迷子になってんじゃねぇよ」
「迷子じゃねぇ」

 悟空の言葉に三蔵はむっとした表情を浮かべる。

「じゃあ、なんだよ。ひとりだけはぐれるなんて、迷子以外ねぇだろっ」
「はぐれたわけじゃねぇ。お前らが勝手にいなくなっただけだ」
「……あのな」

 悟空はがっくりと肩を落とす。

「そういうのを迷子っていうんだろ。ったく、俺がそうなったらぜってぇ迷子だっていうくせに」

 どうせ言っても聞いてもらえないので、悟空は小声でぶつぶつと文句を言う。

「帰るぞ」

 そんな悟空を案の定無視し、三蔵は立ち上がった。
 だが悟空はいつまでたっても動きだそうとしない。

「おい」

 焦れたように三蔵が声をかけた。

「……えっと、わかんねぇ」
「あ?」
「だから、宿の場所、わかんなくなっちゃった」

 てへ、という感じで悟空は笑う。

「てめぇは……」

 途端に三蔵の表情が不機嫌そうなものへと変わる。
 そして。
 スパーン、と悟空の頭にハリセンがヒットした。

「ってぇなっ。も、自分だって迷子のくせになんだよっ」

 悟空は頭に手をやって、噛みつくようにぎゃんぎゃんとわめく。

「だから俺は迷子じゃねぇっ」

 返す三蔵の口調も荒い。
 言い合いはだんだんと激しくなり、三蔵が法衣姿というのも目を惹いて、周りに人垣ができていった。
 そんななか。

「うーん、どうしましょうかね」

 少し離れた場所で緑の目の青年が呟き、それに赤い髪の青年が答える。

「あの人垣を掻き分けてくのはゴメンだな。俺らまで見世物になっちまう」
「そうですね」

 騒ぎを聞きつけ、少し前にふたりはそこについたのだが。

「ま、犬も食わぬと言いますしね。もう少し待ってみますか」

 とてもそんな風には見えないが、あのふたりは――
 なんとなく腑に落ちないような気分になりつつも、八戒の言葉に悟浄は頷いた。