【原作寺院設定】
抱き枕


2008年12月04日


たいしたことはしていないはずなのに、ひどく疲れた体を寝台にと沈めた。
肌ざわりの良いシーツに、体がちょうどよく沈む柔らかい布団。
微かに鼻腔をくすぐる良い香りは眠りを誘う香だろうか。
普通であれば気持ちよく眠れる――のだろう。

寝返りをうって天井を見上げる。明かりは落としてあるが、ずっと目を瞑っていて闇に慣れた目には、細部まで緻密に描かれた美しい模様がわかる。
天井など、そうそう見ないところまで綺麗に設えた、隅々まで手が行き届いた部屋。
三蔵法師に相応しく――そう思ってのことだろうか。

くだらないことだ、と思う。
別に部屋の造りなどどうでも良いことだ。
ここに――。

無意識のうちに手を動かして温もりを探す。
が、ありはしないことに気づく。

置いてきたのだ。
ご遠慮くださいと、強く言われて。

舌打ちしたい気分になる。
それはいないことを知っているはずなのに探してしまう自分に対してか、そばに温もりがないことか。

こんな豪奢な寝台でひとり眠るよりも野宿でも小猿がそばにいる方がぐっすり眠れるのだ。
あの抱き枕がある方が。
腕にするとちょうどよい温もりで眠りに誘う。
こんなこと、自分自身でも予想していなかった。

朝になって、くだらない儀式をすませたら、そのまま帰ろう。
そう強く思う。

「――悟空」

呟いて目を閉じた。