【原作寺院設定】
しっぽ


2008年12月15日


「さんぞっ」

パタパタと悟空が執務室に飛び込んできた。

「とれた。結んで」

そして、手に持つ組み紐を三蔵に差し出す。
よく見ると髪の毛はボサボサで、細い木の枝や木の葉がついている。

「……藪にでも突っ込んだか」
「すっげぇ。よくわかったな、三蔵」

キラキラと金色の瞳を輝かせて悟空はいう。
『尊敬』という二文字を浮かばせているような表情に、三蔵は溜息をついた。

「俺は忙しい。それにちったぁ自分で結ぼうとは思わねぇのか」
「だって……難しい」
「練習しろよ。そのうちできるようになる」

そういって書類に向かう三蔵に悟空はうーと顔を歪める。
が、そうしていても結んでもらえないとわかった悟空は、肩を落として執務室の隅の方でごそごそとやりだした。

が。
五分経っても、十分経っても、ごそごそとやっている動きは一向に止まらない。
それは却って気になることで、ふぅ、と三蔵は溜息をついた。

「悟空」

呼ぶと、悟空が振り向いた。
いまにも泣きそうな情けない顔をしている。
しかも髪はぐしゃぐしゃで、組み紐は髪に絡んですごい状態になっていた。
三蔵はもう一度、深い溜息をつき。

「来い」

と悟空を呼び寄せた。
しおしおと、悟空は三蔵の傍に寄る。怒られるのを覚悟しているような顔で。

だが三蔵はなにも言わず、悟空に後ろを向かせると、器用な長い指で髪に絡んだ組み紐を丁寧に解いていく。
それから机の抽斗を開け、櫛を取り出すと悟空の髪を梳きだした。

頭を撫でられているようで、悟空の先ほどまでの泣きそうな表情は、笑みにと変わる。
髪を束ねられ、きゅっと組み紐で結ばれる。

「できたぞ」

ぽん、と悟空は軽く頭をはたかれた。

「ありがとっ」

満面の笑みを浮かべて、三蔵の方を振り返る。
それから、見えはしないのだが、結ばれたところを見ようとするかのようにくるり、と悟空は回った。
なんとなく、自分の尻尾を見ようとする仔犬のようで――笑みが誘われるような仕草だ。

「外に行って来い。あんま手間かけさすんじゃねぇぞ」

そういう三蔵の表情は笑みこそ浮かんでなかったが、柔らかいものだった。