【原作寺院設定】
バナナの正しいむきかた


2008年12月28日


「食うか?」

赤い髪の青年がそういって差し出したのは、1本のバナナ。

「食うっ」

もちろん、小猿は喜んで手を伸ばす。
が。

「ちょっと待った」

その額を軽く押さえ、悟浄はバナナを小猿の手の届かない頭上にと持ち上げる。

「なんだよっ。くれるって言ったじゃんかっ」

バナナを取ろうとして、悟空はぐるぐると手を回す。一生懸命な感じが、なんだがとても可愛らしい。

「……お前、それワザとか?」

少し呆れたように悟浄が問いかける。

「ワザとは悟浄だろっ。意地悪カッパっ」

悟空の頬がぷくっと膨らむ。
そんなところも――。

「ま、これじゃアレだな……。可愛がるのもわかんなくもねぇか」

悟浄はひとつ溜息をつく。

「なんの話だよ。バナナ、くんねぇの?」
「やるよ。やるけど、1つ条件があるんだ」
「条件?」

悟空は小首を傾げて、悟浄を見上げる。

「……それも無意識なわけね」
「へ?」

さらに小首を傾げる可愛らしい姿に、悟浄はなんとなくもうひとつ溜息をついた。

「ま、いいや。それより条件というのはな、写真を撮らせてもらいたいんだ。バナナを食うところの」
「……なに、それ?」
「なんでもいいだろ。バナナ、欲しくないか?」
「欲しいっ」

手を伸ばすのに、今度は手渡してやりながら、悟浄はカメラを構えた。

「とりあえずむいて、食べようとして口を開けてるところで1枚、な」
「うん。わかった」
「すぐ食うなよ」
「わかったっていってるじゃん」

少し拗ねたような表情を見せ、悟空はバナナを――。

「って、おいっ」

悟浄は慌てて、構えていたカメラをおろした。
というのも。

悟空がバナナの両端を持って、いきなり引っ張ったのだ。
バナナは綺麗に半分に割れて。

「ちょっと待てって。三蔵に半分、渡してくる」

唖然としている悟浄を残し、悟空は足取りも軽く駆けだした。





――その後。

「どうしたんです? 賭けにでも負けましたか?」

家に帰ってきた悟浄はなんだかボロボロになっているようで、出迎えた八戒が少し驚いたように声をかけた。

「……なんでもない」

小猿ちゃんに仕掛けた悪戯(というか本当はその保護者をからかってやろうと思ったのだが)で、その保護者にこっぴどい目に合わせられた、とは到底いえず、悟浄は言葉を濁す。
もしそれを八戒に知られたら――これ以上にひどい目に合うことになる。
だれだって命は惜しいだろう。

「それより、な、八戒」
「なんです?」
「バナナってどうやってむく?」
「ヘタからむくか、後ろからむくかってことですか?」
「そうだよな。普通、その2つだよな」

バナナは半分こにする。
なんでそんなことになっているのか訳が分からないが、あのふたりの間ではそれが普通らしい。

「仲、良すぎだろ」

悟浄は呟いた。