【パラレル(SSオリジナル or 橘火設定)】
雨
2009年11月8日
カタカタと規則正しく、キーを打つ音が部屋に響く。
が。
「チッ」
低い舌打ちの音とともにバックスペースが連打された。
三蔵は深く吸い込んだ紫煙を吐き出すと、灰皿に煙草を押し付け、背もたれに体重をかけるようにして天井を見上げた。
雨、のせいだろうか。
わけもなく無性に苛々とする。
そのまま見るとはなしに天井を見上げていたところ。
カタン、と小さな音がした。
雨の匂いが強くなる。
「機嫌悪いね」
音もなく、背後に人影が立つ。
ふわりと抱きしめられて、見上げていた視界に微かな笑みを浮かべている金瞳が映る。
雨音さえ聞こえないくらいの細かい雨なのだが、ずっと外にいたのだろうか。
茶色の髪の先から滴が落ちてくる。
「濡れる」
そんな様子に動かされた様子もなく、にべもなく言い放ち、三蔵は抱擁から抜け出そうとする。
が。
「その記憶、塗り替えてあげようか」
そんなことを言われて、その動きが止まった。
ゆっくりと振り返り、金色の瞳を正面から見据える。
「……できるものなら、な」
きつい光を宿す紫暗の瞳に、鮮やかな笑みが返ってくる。
「試して……」
――みる?
言葉の最後は唇の間に消えた。