【パラレル(高校生×大学生)】
ロミオとジュリエット
「三蔵。三蔵ってば」
ようやく朝の光が差し込む頃。
隣で眠っている三蔵を揺り起こす。
「いい加減、起きろよ」
ちょっと揺すったくらいじゃ起きやしない。
鼻でもつまんでやろうかと思ったとき、微かなうなり声がして、ようやく三蔵が目を開けた。
明けゆく空と同じ、濃い紫の瞳。
「――ったく、人を目覚まし代わりにするなよな」
不覚にも見とれて、少々乱暴な口調になる。
いつもなら、減らず口が返ってくるところだが、寝起きでぼーっとしているらしく、珍しく何も返ってこない。
というか。
「おい、こら、また寝ようとすんな。今日はお父さんが来るんだろ? 朝までに観音さんのところにいなきゃマズいんだろ?」
昨日。いつものように泊まりにきた三蔵がそう言った。
週末ごとにウチに遊びに来る三蔵は、そのままほぼ強引に泊まっていくので、ほとんど強制的にそれが習慣になりつつあった。
学校の寮には、『週末は叔母のところに泊まる』という届出がされているらしい。
で、今週もやってきたのだが、今週は所用でお父さんがこっちに出てくるので、本当に叔母さん――観音さんのところにいなくてはならないと言う。
お父さんが来るのは今日の朝。
だったら、ここに泊まらずに、ちゃんと観音さんのところに行けといったのだが、朝早く出れば間に合うといってきかなかったのだ。
――自分でそういったくせにまったく。
「ほらほら、ちゃんと起きろよ」
「まだ朝じゃねぇだろ……」
「もう明るくなってる。鳥の鳴き声だって聞こえるだろ?」
「……あれは、カラスだ。カラスは夜でも鳴く」
「なわけねぇだろ。だいたいこの時間に起こせっていったのは三蔵だろ?」
布団を剥ぎ取る。
さすがにそうまでされて寝ていられなくなったのか、眉間に皺を刻みながら、三蔵が起き上がってくる。
その様子を見ながら、先ほどの会話を思い出し、ちょっと笑いが込み上げてきた。
「なんだ?」
起き抜けの、少し不機嫌そうな様子で三蔵がきいてくる。
「いや、この間の英文学の講義を思い出しちゃった。シェークスピアの『ロミオとジュリエット』 夜明けまでに町を去らなくちゃいけないロミオを引き止めるために、ジュリエットが朝に聞こえてきたヒバリの鳴き声を、夜に鳴くナイチンゲールの声だと言うシーンがあったなって」
そういったら、今度は三蔵が微かに笑みを浮かべた。
「俺がジュリエットの方という例えは気にくわねぇが」
腕が伸びてきて、不意に軽くキスされる。
「『引き裂かれた恋人同士』っていう設定は言いえて妙かもな」
もう一度、近づいてくる顔を慌てて押し戻す。
最近、この手のことに慣れて流されそうになるけれど。
「『恋人』じゃねぇだろ」
そんな事実はどこにもない
「そんなこと言ってねぇで、いい加減、認めちまえばいいのに」
布団から出て、顔を洗いに台所に向かう三蔵の顔は、なんだか余裕綽々で。
「認めるもんなんて何もないっ!」
背中に向けて叫んだ言葉は、なぜか空しい響きのように感じられた。