【パラレル 警官×怪盗(キリリク「夜に咲く花」設定)】
匂い
「三蔵、みっけっ!」
突然、上から声が降ってきた。
と思う間もなく、ガサッと頭上の木の葉が揺れ、ストンと小柄な影が目の前に舞い降りてきた。
「さんぞー」
幾分子供じみた口調で名前を呼んで、ぽふっと抱きついてくる。嬉しそうな笑みを浮かべて、すりすりと頬を寄せてくるさまは、どこか小動物を思い起こさせた。
不意をつくその行動に、びっくりしなかったと言ったら嘘になるが、どこかそんな予感もしていたので、慌てることなく、なんとなくそのまま抱きしめてやった。
すると腕の中の子供は、笑みをますます大きくして、甘えるようにもたれかかってきた。
と、背後からざわめきが微かに聞こえてきた。
「……ありゃ、結構早く気づかれちゃったな」
気持ち良さそうに、腕の中におさまってままで悟空が呟いた。
「あれだけの警備も形無しだったか」
背後の屋敷には、警察がところ狭しとひしめき合っていたはずだ。
『斉天大聖』という怪盗から、屋敷の主が所有する宝石を盗むという予告状が送られてきたため。
今までにない大人数の警備だったはずなのだが。人海戦術とか言って。
どうやら、こいつの前には、たいして役に立たなかったようだ。
「ん〜。人数がいればいいってもんじゃないもんね」
そう言って笑うこの子供こそが『斉天大聖』――神出鬼没と謳われる怪盗。
見た目は、どうしてもそんなたいそうなものには見えないが、この子供は、姿はおろか、その影さえ警察に気取られたことのない。
――俺を除いては。
「それにしても、よく俺の居場所がわかったな」
「匂いがした」
ぱっと顔をあげて、悟空が言う。
大きな金色の目が、月明かりを反射して、キラキラと輝いて見えた。
「匂いって……ドーブツか、お前は」
「なんだよ、その言い方」
ぷぅっと頬を膨らませる様子は可愛らしくて、本当に小動物にしかみえない。
「ずっと会いたいって思ってた。警備のなかに三蔵がいなくて、会えないかと思ってたけど、ここにいてくれてよかった」
また悟空は、ふわりと抱きついてきた。
「三蔵の匂いがする」
大きく息を吸い込むようにして、そんなことを言うと、えへへと笑みを浮かべた。
あごに手をかけて、上を向かせる。
「さん……ぞ……?」
少しかすれたようなささやき声。
何かを期待するかのような、甘く蜂蜜色に溶けた目。
微かに笑みを浮かべ、期待に応えるかのように、顔を近づけていった。