【パラレル設定(NovelTopOriginal幼馴染)】
本当は――



「一緒に新天地をつくらないか」
 学校の廊下で、すれ違いざま、初めて会った相手にいきなりそんなことを言われた。
 一瞬、目が点になった。
 そして、次の瞬間、アブないヤツだとの結論に達し、ここは速やかに離れたほうがいいと判断して、実行に移そうとした。
 が。
「何してるんだ、てめぇ」
 突然、怒声とともに、腕をひかれた。
「何、って見ての通り、おつきあいをしてくれるように頼んでいるのだが。邪魔などという野暮な真似はしないでくれるかな」
 涼しい顔をしていう目の前の男に、なんだか呆れてしまう。
 あの台詞は「つきあってください」と同じ意味なのか?
「ふざけたこと、いってるんじゃねぇよ」
「ふざけてなどいないさ。だいたい俺は、孫悟空と話をしているんだ。横から口を出さないでくれたまえ」
 バチバチと、火花が散っているんじゃなかろうか、という険しい視線が頭の上で交わされる。
「そもそも、お前は孫悟空のなんなのだ? 恋人でもないくせに、孫悟空の恋路を邪魔する気か?」
 ピクリと、後ろから羽交締めに抱きしめられている腕が震えた。
「……って、恋路もなにも、返事もしてないんだけど」
「おぉ、そうだったな。で、返事は?」
 ため息とともに言った言葉に、返されたのは、イエス、という答えを疑っていないかのような満面の笑顔。
 その自信はどこからくるんだろう。
「あのね。俺、あなたのこと、なにも知らないんだよ。それでつきあってくれっていわれても困るんだけど」
「そうか。それもそうだな。親交を深めるところが始めなくては、な。とりあえず、今日、一緒に帰るっていうのはどうだ?」
 ピクピクとまた抱きしめられている腕が震える。
「今日はダメ。三蔵と約束があるから。また今度ね」
「……そうか。約束ならば仕方ない。だが、ひとつきく」
 ずいっと男が前に出て近づいてくる。
「そいつは、一体なんなんだ?」
「三蔵? 幼馴染だよ。……今はね」
「そうか」
 男はうんうんと頷くと、急に手を伸ばしてきた。頤に手をかけられ――。
 ゲッ、これって。
 突然のできごとに目をむく。あたふたと気はあせるけど、体は動かない。
 だが、唇が触れる瞬間、凄い力で体の向きを変えられた。
 すっぽりと三蔵の腕の中におさまる。
「残念。続きは、今度な」
 耳に男の声が聞こえ、立ち去っていく気配がする。
「ったく、隙だらけなんだよ、てめぇは」
 三蔵の声が頭の上から聞こえる。
「……少しは妬けた?」
「別に」
 素っ気無い返事とともに、体が離される。
 ちぇ、ケチ。
「でも、本当は――?」
 もう一度、今度はまっすぐに見つめて問いかける。
 ふいっと視線がはずされた。そして、三蔵はスタスタと凄い勢いで歩いていった。
 本当は――。
 その先の台詞。いつかは言わせてみせる。
 三蔵の後ろ姿を見つめながら、いつも思っていることを、改めて決心した。

 それにしても、謎の男の登場で、ちょっとは三蔵も焦ってくれるかも。
 なんだかヘンな人だったけど、それについてだけは感謝したい気持ちになった。