【パラレル設定(NovelTopOriginal幼馴染)】
屁理屈



 放課後。たったか、三蔵の教室に向かう。後ろの扉から中を覗いて。
 あれ? 三蔵、いない?
「迎えにきてくれたのか? 孫悟空」
 きょろきょろと見回していたら、こちらに近づいてくる人がいた。
 誰だろう。
 見かけない顔に一瞬頭をひねるが、すぐについ先日、初対面で、えぇっと……台詞は忘れちゃったけど、『一緒に二人の世界を作らないか』みたいなことを言ってナンパしてきた人だと気づいて、身構える。
 だって、この人、いきなりキスしようとしたんだもん。
「では、帰るか」
 その男はにこにこと笑って、そんなことを言いつつ、肩を抱こうとする。
 だけど、身構えていたおかげで、余裕でその手を避ける。
「ちょっと待って。なんで、一緒に帰る話になってるの?」
「この間、『また今度ね』って言ってただろう?」
 ちょっと心外そうな表情になって、男が言う。
 ……また今度っていうのは、たいていにおいて婉曲なお断りの表現なんだけど。
「今度は今度。今日は違くて、三蔵を迎えにきたんだけど」
「三蔵……玄奘三蔵か? さきほど、先生に呼ばれて指導室に行ったぞ」
 指導室? あぁ、あれかな? 生徒会の役員に立候補しないかってやつ。再三、勧められているんだよね。
 やだな。三蔵、まさか立候補したりしないよな。もし生徒会の役員になったら忙しくなるし、だいたい今でさえ凄い人気なのに、もっと凄くなっちゃう。
「指導室に呼ばれるような輩とは付き合わない方がいいぞ、孫悟空。付き合うならば……」
 自分の考えに没頭してて、そばにこの人がいるの、忘れてた。
 そう。この人はアブない人だったんだ。
 ぐいっと腕を掴まれて――。
「ヤダッ!」
 慌てて突き放したけど。
 今、触れた。
 軽くだけど、絶対、唇が触れた。
「……おい」
 と、背後から三蔵の声がした。
「うえーん、さんぞーのばかっ!」
「ちょっと待て、なんで俺なんだ!」
 三蔵が叫ぶのが聞こえたが、無視して走り出した。

「だから隙だらけだっていったんだ」
 家の近所の公園で、ぐずぐずと泣いていたら、声がした。
 顔をあげると三蔵がいた。
「……さんぞーのばか」
「だから、なんで俺が馬鹿なんだよ。自業自得だろうが」
 三蔵の眉間に皺が寄る。
「だって、俺は三蔵のものなんだから、三蔵がちゃんと注意しとかなきゃいけないの」
「……どういう理屈だ、それは。だいたい俺のものって、なんの話だ」
「そう決まってるの。俺は三蔵のもんだって。自分のもんなんだから、責任もって見とかなきゃダメなんだもん。そしたら。そしたら……」
 唇の感覚が甦ってきて、思わず眉をしかめる。
 と。
 唇に柔らかく触れていったものがあった。
「消毒」
 三蔵がそう言って離れていく。
「三蔵っ!」
 慌てて立ち上がる。
「三蔵、いまの、もう一回」
 三蔵の背中に呼びかけた。