【原作寺院設定】
ぬくぬく



 ふと、門のところに人影があるのに気づいた。
 真夜中をとうに過ぎ、寺の明かりもすべて落とされた暗闇のなか、目ではなく、感覚でその人影に気づく。
 ということは……。
 知らずに足が速まった。
 そして。
「あ、おかえりー」
 近くまでくると、予想に違わぬ声がした。
 月のない夜。
 星明りだけの薄暗さでは、これだけ近づいても、その姿はおぼろげだ。
 だが、間違うはずもない。
「おかえりじゃねぇよ、こんなところでなにをしている」
「三蔵を待ってた」
 当たり前のように、なんでそんなことを聞くんだろうといった感じで悟空が告げる。
「お前な、八戒のところに泊まるって言ってなかったか」
 三仏神からの依頼で、寺を留守にすることになった。
 その間、八戒のところに泊まっていいかと聞くので、勝手にしろと言ってあった。
「泊まってたよ」
「じゃあ、なんでここにいる? 帰るのは明日だと言ったはずだが」
「うん。でも、なんとなく三蔵、今日のうちに帰ってくるかな、って思って」
 確かに、依頼が片づくのと同時に、早々に引き上げてきた。
 それがわかった、というなら、それはそれでもいい。
 傍から見れば不思議なことなのだろうが、こいつの場合、そういうことはありえる。
 だが。
「だとしても、こんなところで待っていたら、いくら馬鹿でも風邪をひくぞ」
 これから冬にと向かう季節。
 陽が落ちれば、辺りはぐっと冷え込む。吐く息が白くなるほどだ。
「馬鹿は余計だと思う。それに大丈夫だもん。八戒がこれ、くれた」
 むぅっと頬を膨らませ、それから悟空は首に巻いていたマフラーを広げて見せた。
「んなもん、たいして役に立たんだろうが。だいたいこんなところで待ってないで、部屋で待ってればいいだろう」
「……だって、少しでも早く会いたかった」
 ポツリとした呟き声が返ってくる。
 その様子にため息が出る。
「お前、ホントに馬鹿」
「なんだよ、それ」
 くってかかってこようとするのを、腕に抱きこむ。
 と、急に悟空はおとなしくなった。
 しばらくそのまま抱き合っていたが、やがて悟空が小さく笑い声を漏らした。
「変なの。三蔵のがあったかい」
「こんなところでずっと待ってたら、体が冷えるに決まってるだろうが」
「えへへ。ぬくぬくー。なんか幸せー」
 嬉しそうに、頬をすり寄せてくる。
「……ホントに馬鹿」
 もう一度ため息をついて、腕に力をこめた。