【原作寺院設定】
…をい



 夜のしじまに、微かに扉の開く音が響いた。
 パタパタと軽い足音が近づいてくる。
 そして。
「さん……ぞ……ぉ」
 か細い声。
 てっきり、物も言わずにベッドに潜りこんでくるか、怖いといって泣きついてくるか、そのどちらかと思っていたのに、予想が外れて少し驚く。
 こんな風にどこか甘い声で呼ばれるとは。
 ――甘い……?
 身を起こすと、少しはだけた夜着に身を包んだ悟空がいた。
「さんぞ……、なんか、ヘン……なの」
 淡く上気した頬。
「体、が……アツ……い」
 切なげに眉を寄せ、ふわりと抱きついてくる華奢な身体。
「ぅん……」
 触れ合ったときに、漏れる熱い吐息。
「お前……」
 顔をあげさせると、月の光を受けて、溶けるような金色の目が妖しく輝いた。
「さんぞぉ」
 泣き出す手前のような声で呼ばれる。
「たす……けて……」
 まるで誘うように、少し開かれた桜色の唇。
 誘われるまま、柔らかそうな唇を塞ごうとしたところ。
 カクン、と、まるで魂の抜けてしまった人形のように、体から力が抜けて、悟空が倒れ込んできた。
「悟空?!」
 慌てて、抱き起こす。
 と。
 すぅすぅ、と気持ちの良さそうな寝息が聞こえてきた。
 同時に、寝息にアルコールの匂いが混じっているのに気づく。
「……をい」
 思わず口から低い呟き声が漏れた。


 そして、その後の悟空の運命は。

 ――誰も知らない。