例えばそれは
「さんぞ」
呼ばれて仄かに光るディスプレイの画面から目を転じると、戸口に枕を抱えた悟空がいた。
「眠れねぇ」
まるでむずがる子供のような表情を浮かべている。
三蔵はひとつため息をついて、手を差し伸べた。
と、ぱっと顔を輝かせて、悟空が飛んできた。
にこにこと嬉しそうな顔をして横に立つ。三蔵は伸ばした手で、頭を抱えるように悟空を引き寄せた。
そして、そっと唇を重ねる。
さきほどの乱闘の余韻だろうか。
伝わる体温はいつもよりも高く、熱を持っているようだった。
「ん……」
啄ばむようにただ触れるだけのキスを繰り返していたが、それだけでは足りないというように悟空の舌が追いかけてくる。
それに応え、戯れのように軽く舌を絡め、それから。
薄く開いた唇に舌を差し入れて、本格的に口内を蹂躙する。
「……っふ」
あまり息継ぎがうまくできない悟空が苦しげな声をあげる。
だが、それを無視して三蔵はキスを続ける。
何度も角度を変えて、何度も舌を絡めては甘い唇を味わい。
そして、ようやく悟空が酸欠寸前になるところで唇を離す。
と、力が抜けたかのように悟空が崩れ落ちてきた。
座ったまま抱きとめ。
「あっ」
そのうなじに唇を寄せる。
「……ぅんっ」
強く吸い、唇を滑らせるように首筋を辿る。
そうしながらも、片手で悟空を支え、もう一方の手で上着をたくしあげた。
「や……、んっ……」
直接、肌に手が触れると震えるような吐息が漏れた。
それを耳で心地よく聞きながら、木目の細かい肌の感触を楽しむ。
「……ここで、スルの……?」
乱れる息の下、小さな声がした。
「嫌か?」
三蔵は、弄ぶように触れていた耳朶から唇を離して問いかけた。
金色の目は潤み、溶けた蜂蜜のように艶やかに輝いている。
舐めてみたら本当に甘いのではないか、と思う。それでなくてもどこもかしこも甘い匂いがしているのだから。
「ううん」
熱い息を吐き出しながら、悟空が抱きついてきた。
「いい。三蔵がそうしたいなら」
従順に体を預けてくるその様に、なんともいえぬ想いが込みあげてくる。
この子供を拾うまで、知らなかった感情。
例えば、それは。
三蔵は微かに笑みを浮かべた。