柳は緑 花は紅 (8)


怖い――。

寝室の床に、小さく小さく体を丸めてうずくまり、悟空はぎゅっと目を瞑った。

本当は、こんな弱い姿はだれにも――特に三蔵には見せたくないのだけど。
だったら、雪が溶けてなくなるまで、どこかだれも知らないところに籠るべきなんだろうけど。

でも、それも怖くて。
だれもいないところにひとりでいるのは怖くて。
すぐ近くに三蔵がいる寝室にと逃げ込んできた。

でもこんなにも弱い姿は見せたくない。
だから、どうかここには入ってこないように、と願う。

強い、強いあの人の隣にいるためには、強くなければならない。
庇われるような、枷になるような存在にはなりたくない。
それではそばにはいられない。
なによりも近くで、あの光を感じていたいから。
だから、強くありたい。

――だけど。

怖い。


ふるり、と悟空は震え、いっそう小さく縮こまった。
三蔵が入ってくる気配はない。
きっと、悟空が入ってこないように、と願っていることを知っているのだろう。

三蔵だって鬼ではないのだから、悟空が望めば『怖くない』と慰めて甘やかしてくれるのだろうと思う。
だけど、それではダメだ。
それでは、余計に弱くなってしまう。
それは嫌だ、と思う。

怖いけど、でもそれ以上に、怖いという気持ちに負けて弱くなるのは嫌だ。
もうすでに弱くなってはいるけれど。
三蔵がこうやって外にいるということは。
悟空がひとりで立ち向かえるまで待っていてくれる、ということなのだろう。

だから、怖いけど。
いまはただ怖いだけだけど。

いつか。
どうやったらそうなるか全然わからないけれど、いつか。

この怖さをなくすことができる日がくるように。

悟空はぎゅっと自分自身を抱きしめた。



(memo)
前回と対になっています。