柳は緑 花は紅 (15)


ふぅと吐き出した紫煙が上っていく先――空を、三蔵は見上げた。
穏やかに晴れ上がり、気のせいか目に映る青も少し前と比べて柔らかい色のようだ。暖かな空気に潜む冷たさはもう厳しいものではなく、どこか爽やかで。

春の訪れを感じさせた。

ふぅともう一度煙を吐き出す。
周囲を灌木に囲まれて、ぽっかりと空いたこの空間は、庭の奥まったところにあることもあって、絶好の隠れ場所となっていた。

たまにはひとり静かに過ごすのも悪くない。
そう思っていたところ。

「三蔵っ」

ガザッと低木が揺れ、悟空が姿を現した。
満面に笑みを浮かべて、隣に飛び込んでくる。
ふぅと、三蔵は今度は溜息をついた。

「……邪魔、した?」

少し心配そうな顔になって、悟空が問いかけてくる。
その表情に、微かに三蔵の雰囲気が柔らかくなる。

「煩くしねぇんなら、いい」
「うんっ」

途端に悟空は表情を変える。
そこには、少し前までまとっていた怯えたような気配はない。
手を伸ばして、頭をぽんぽんと叩くように撫でた。

と。
びっくりしたような表情が悟空の顔に浮かんだ。
それを見て、三蔵もはっとして手を止める。

単純に『良かった』と思っただけなのだが、普段の自分を鑑みるとあまりにらしくない感情だと、悟空の表情を見て改めて認識する。
伸ばした手をどうしようか、と思っていたところ。

ひどく嬉しそうに悟空が笑った。

その笑顔にさらに三蔵はうろたえるような感覚を味わうが。

「……お前、どうしてここがわかった?」

それをごまかすかのように問いかける。

「上から見えた」
「上?」
「そ。あそこ」

悟空が指さしたその先は、遥かといっていいほど遠くにある裏山の一角。

「坊さん達、見当違いのトコ探してたから、しばらくは見つからないよ。三蔵、サボリだろ?」

あんなところからこちらが見えるなんて常人技ではない。
だが、それよりも。
悟空は、冬に入ってから裏山に行くのを避けていたのだが。

「そうか」

本当に大丈夫になったのだな。
そう思った三蔵の顔には、無意識のうちに笑みが浮かんでいた。