柳は緑 花は紅 (20)
ぽてぽてした花を指でつつき、それから鼻を近づけて、クンと匂いを嗅ぎ。
「なんだか美味しそう……」
悟空は呟いた。
と、答えるかのように、風で花が揺れた。
「ひゃ、冷たっ」
ぱたぱたと花や葉についていた雨が落ちてくる。
「嘘だよ、食べないって。でも、この間、食べた桜餅の匂いに似てたから。やっぱり、葉っぱ、これ使ってるんだね」
手を伸ばして、葉を撫でるようにする。
まるで、木と話をしているようなその姿。
というより実際、悟空には木の『コエ』というようなものが聞こえていた。
たぶん誰も信じないだろうが。
ただ一人の人を除いて。
「さんぞーが……」
悟空はそのただ一人の人の名を口にする。
「元気ないんだ。雨、だから、かな」
いつの間にか葉を撫でる手が止まっている。
「……ん? 俺はへーき。濡れても大丈夫」
悟空は上に顔を向け、それから微かに笑みを浮かべて頷くと、とてとてと木の幹の方へと近づいていった。
「こっちのが濡れない、ね」
木の幹に背を預け、ほっと悟空は息をついた。
視界を煙らす細かい雨。
しっとりとすべてを湿らせていく。
「雨にはこんな優しい雨もあるのにね」
いつか。
いつか、気付いてほしい。
そう、願う。
自分にできることは、なにもないから。
なにかできればいいのだけど、なにもできないから。
だから、気づいてくれることを強く願う。
雨は癒し、育むこともできるのだと。
冷たいだけではないのだと。
どうか。
どうか、気付いて。
悟空は祈るように目を閉じて、雨の気配に耳をすませた。