柳は緑 花は紅 (22)
夜遅く、三蔵が自室に戻ると、悟空が寝台の端に寝ているのが目に入った。
正確にいえば、座って待っているうちに寝てしまったのだろう。
服は着たままで、上掛けをかけずにそのうえで眠っている。
普段から、遅くなるときは先に寝てろと言ってあるのだが、悟空はこうして三蔵を待っていることをやめない。
このところずっと天気が良いから外で力いっぱい遊んでいて、夜はさすがに疲れて眠いはずなのに。
結局、こうして待ち切れずに寝てしまうというのに。
それでも三蔵を待っている。
三蔵は軽く溜息をつくと、寝台に近づいた。
靴を脱がせ、服は面倒だからそのままにすることにして、抱きあげるようにして悟空を寝台に寝かせようとする。
と。
「さんぞー」
舌足らずな声が聞こえてきた。
「おかえりぃ」
ほわほわとした笑みが浮かぶ。
「おやす……み……ぃ」
それから、すぅと吸い込まれるように悟空は眠りに落ちた。
しばらくその寝顔を見つめ、三蔵はもう一度溜息をつくと、あらためて悟空を寝台に寝かせた。
基本的な挨拶を教えたときから、三蔵がいる限り、悟空は欠かさず挨拶をしてくる。
それはそう躾けたからというよりは。
たぶん、挨拶をする相手がいるのが嬉しいのだろう。
自分以外の人間がいることが。
もう岩牢にいるのではない、と確認できることが。
三蔵は、くしゃりと髪をかきまぜるように悟空の頭を撫でた。
ただいま、の代わりのように。
もうすでに寝入っているはずなのに。
悟空は、幸せそうな笑みを浮かべた。