柳は緑 花は紅 (23)


ぷちん、と木の芽を摘み取って、悟空はその香を嗅いだ。
緑の香は清々しいものだけど。

「食べると苦いんだよな……」

呟いて、腰につけている小さな袋に入れる。
今日は朝早くから山菜摘みにきて、もうすでに袋のなかは数々の山菜でいっぱいになっていた。

「こんなもんだな」

袋のなかを確かめて悟空は満足気ににっこりと笑うと、パタパタと服についた汚れを落とし、寺院に向って山を降り出した。

道なき道なのだか、悟空は気にした風もなく進んでいく。
岩肌の露出したところとか、崖だとか、危険な場所でも、なんなく身軽に越えていく。

その歩調は、普通の道を歩いているのとまったく変わらない。
どころかどんどんと速度を増し、やがて道が緩やかになると、ほとんど走っているくらいの勢いになった。

草むらや岩陰にキツネやウサギの姿が見える。
だが。

「ごめん。遊ぶのはまた今度なっ」

いつもなら一緒になって遊んでいくところを、悟空は手を振って走り抜けていく。

「三蔵が帰ってくるんだっ」

そう告げる声は足取りと同じく弾むように明るい。

三蔵は、寺院の仕事で出かけていた。
今回は短くて、ほんの1晩のことだったけど。
淋しい、と思う気持ちに違いはない。

だから三蔵が帰ってくるのが嬉しくて、『お帰り』の気持ちを表したくて、山菜を摘みにきた。
きっとこっそりと酒を買って帰ってくるにちがいないから、つまみになるだろう。

悟空にとっては、山菜はどれもそんなに美味しいと感じるものではないのだけど。
でも、春の香がするので嫌いではない。
なによりも、自分が採ってきたものを(料理をするのは別の人だが)三蔵と一緒に食べられるのは、凄く幸せなことだと思う。

うまいとかまずいとか、そんなことは言ってはくれないけれど、まぁ、それはいつもことだ。
でも、意外と喜んでいるのではないか、と思う。

「早く帰ってくるといいな」

悟空は呟き、さらに足を速めた。