柳は緑 花は紅 (29)


夜更け。

三蔵は、疲れた体を引きずるようにして、私室に戻ってきた。

雨のせいだろうか。

いつよりも忙しかったのは事実だが、それが余計に辛く感じられていた。
すぐにでも布団に潜り込もうと思って、扉を開け。
そして。

部屋の真ん中で、成り行き上、拾って連れて帰ってきた子供が丸くなって眠っている姿が目に飛び込んできた。

思わず脱力するような気分を味わう。
なんでわざわざ床で寝こけてやがるんだ、と思う。

悟空のまわりには、くしゃくしゃになった紙がいくつも散乱していた。
三蔵を待っている間、落書きでもしていて、そのうち睡魔に襲われそのまま寝てしまったのだろう。

それにしても、床などでよく眠れるものだ。
三蔵に拾われるまで悟空は岩牢に繋がれていたから、眠るときも当然、固い岩の上で慣れているということだろうか。

もともと悟空は寝つきのいい方でいつも布団に入るとすぐに寝息が聞こえてくる。
この、いつでもどこでも眠れるというのは羨ましいことだと思う。
と、同時になんだか腹立たしくもなってくる。

ほとんど八つ当たりだと自覚しながらも、三蔵はハリセンを取り出し、悟空に近づき――。
ふと、悟空が握りしめているものが目に入って、足を止めた。

それはなんだか皺くちゃになった照る照る坊主。
描かれた顔は、垂れ目で額に赤い点がついている。

「……俺を吊るす気かよ」

三蔵は呟くが、口調に棘はない。

照る照る坊主など、だれに教わったのだろう。
というよりも、どこかで見覚えてきたという可能性が高いか。

散乱している丸めた紙は、照る照る坊主を作ろうとしてのことだったのかと思う。
普通の紙で作ろうとして、うまくできなくて、この惨状になってしまった。

三蔵は、溜息をついた。

もっと柔らかい紙で作るか、布を使うのだと教えなくてはならないな、と思いながら眠る悟空を抱きあげた。